母は料理が嫌いなのだと思っていた。
私の記憶にある母は、ずっとフルタイムで働いていた。家に篭って家事をするよりは、仕事やお稽古ごとで外に出たがるひとだった。今でもそうだ。定年退職した父を家に残し、週に数日はパートで働きに出ているらしい。
弁当には冷食が詰められることも多かったし、毎日の夕飯もそんなに凝ったものが出たわけじゃなかった。レトルト食品が食卓に並ぶことも多かった。朝食は各々がパンを食べた。
それが私にとって当たり前の食卓だった。特に不満はなかった。母は料理があまり好きじゃないし、得意でもないのだから。