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『ジャングルの夜』第七話

 雨に濡れた服を着ていたせいで、体が冷えていた。それで移動中に人の波から外れて、「35コーヒー」というご当地コーヒーを淹れてくれる売店に寄り道した。そんなことをしているせいで、エイサーのショーへも開演ギリギリに辿り着いた。

 スーパーエイサーと名乗る、音楽と演舞を三十分間に出し惜しみなく詰め込んだショーを見た。ショーのあとに、演者が活動費のためにグッズを売るという時間があったが、なにかを表現して生きている人に憧れがある千多は、さっきまで出演していた人と接するのが恥ずかしくて、興味はあるが売り場を覗かずに、おきなわワールド内の素通りしてきたエリアを見てまわることにした。

 晩に予定している、ジャングルをトレッキングするツアーは、このテーマパークの運営と同じ会社が企画しているようで、ツアーの集合場所も、このおきなわワールドだった。

 しかしツアーの集合時間は十九時で、ここの閉園時間は一七時半だった。一時間半ほどどこかで時間を過ごさなければいけなかった。おきなわワールドの周りにはなにもなく、一度市街地へ戻って飯を食い軽く休憩するのがよさそうだった。それで逆算して考えて、千多は十七時に一度おきなわワールドを出ることにした。古典的なおきなわの町並みを再現したような一角の写真を撮っているうちにいい時間となりバイクへ戻った。

   雨は小降りになり、道も一度走ったのを引き返すだけなので、来た時ほど時間はかからなかったが、やはり滑り、危ない場面はあった。気を使う分だけ運転は疲れた。

 昨日食べたステーキが旨かったので、今日も食べようと那覇市街で店を探した。原付を駐めて歩いているところへ知らない番号から電話があった。市外局番から発信元は沖縄だということが分かった。

 でてみると、例のナイトジャングルツアーを企画している会社からで、「台風の影響で非常に状況が悪い――」という用件の切り出しを聞いて、千多は中止になるのだと予想した。正直なところ疲れているのでそれでもよいなと思った。しかし電話は、

「――悪条件なんですがご予定通り参加されますか?」という確認のものだった。

 千多が、「やるなら参加します」と言うと、相手の声が少しガッカリしたようなものへ変わった気がした。

 こちらの都合で当日キャンセルなら一〇〇%料金が発生するはずなので、相手としてはツアーの中止ではなく、参加者の意向でキャンセルという形にしたかったのではないかと邪推した。

「それなら予定通り十九時までに集合してください」と念押しされて、通話を終えた。

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