スカジャンとギター
十三歳の時にスカジャンを持っていた。柄は覚えてないが、風神と雷神が描かれていたような気がする。似合っていなかったことは確かだ。
ある日そのスカジャンを弟が我がもの顔で着ていた。いくら似合っていないとはいえ、七年ぶりに会った親父に買って貰ったものなので、そのまま借りパクさせるわけにはいかなかった。それで、「返せ」と彼に迫った。
すると弟は、彼の持っていたギターと、「交換しよう」と提案してきた。それで私はギターを手に入れた。
弟が持っていたギターは、フェルナンデスのZO-3というモデルで、デフォルメされた象の形のボディーにアンプが内蔵された変なヤツだった。
同級生達が『SMAP×SMAP』を見ている月曜日の晩に、拾ってきたモノラルのラジカセで、『赤坂泰彦のミリオンナイツ』を聞いていた私も変なヤツだったので、ZO-3と私は似たもの同士だった。
ロカビリー寄りの古いロッケンロールが多かったDJ赤坂の選曲と、オールディーズの楽曲が沢山使われている映画『スタンド・バイ・ミー』を見たことで、タイムリープしてきた少年のような音楽センスをしていた私は、ZO-3を手に入れてから、徐々にギターがフューチャーされた音楽の良さも理解していくようになった。
とはいえ当時の中学生が普通に生活していて耳にするギターヒーローというのは布袋かBzの松本ぐらいで、どちらもそれまでニール・セダカとかポール・アンカを聞いていた私には急激に時が進みすぎていて理解出来なかった。私にはDJ赤坂が時々かける六十年代のロックや、夜中にやっていた、「Roots」という現代音楽のルーツを辿るというコンセプトの元、基本的には延々とブルースマンを紹介する番組で耳にする楽曲ぐらいがちょうど良かった。
エリック・クラプトンやジェフ・ベック、ジミー・ヘンドリックスなんかをギターヒーローと認識するようになり、マネしようと試みるうちに、私はZO-3が普通のギターと違うことに気づいてしまった。ZO-3はギター初心者が最初に手にするギターではなく、心得がある者が戯れに弄るべきギターだった。
私は似たもの同士であるZO-3ではなく、「普通のギターが欲しい」と切に願ったが、中学生だった私には、自力でギターを買う金を稼ぐ手段が無かった。
*見切り発車で書き出したギターと私の物語です。もしかしたら続きます。でもたぶん続きません。