『帰ろう』最終第五話
・第一話 ・第二話 ・第三話 ・第四話
三輔が起きるのを待っている間に、こぼれいくらのキャバ嬢からお礼のLINEが来て、通りかかった優しい通行人から、「大丈夫ですか?」と声を掛けられた。缶コーヒーは二本飲んだ。尿意を一度もようして、少し離れた場所で立ちションベンをしたが、緩やかな下り坂になっていて、三輔の方へ向って下っていくので、オレは慌てて自分のションベンを追いかけた。地べたに置かれた三輔の鞄とジャケットを救ったが、三輔本体は救えなかった。
ようやく目を覚ました三輔は、何度目か分からない、「ごめん」という言葉を口にして、「帰ろう」と立ち上がった。いくらか寝て、マシになったのか、足取りは今までよりシッカリしていた。
大きめの通りに出て、タクシーを駐めた。三輔は、住所は、「分からない」と言ったが、「大丈夫」と運転手に、「次の角を左に」「そのまま、まっすぐ」といったようなことを指示した。車を走らせながら運転手は、「こんなご時世だから飲み過ぎるのも無理はない」と言い、政治に対する不満を語った。それでオレは、「こいつ、さっき乗ったタクシーの運転手と同じやつだな」と気づいた。
しばらく進むと、通天閣が近くに見えた。オレは、「本当にこんな場所で会ってるのか?」と何度も確認し、三輔はその度に、「大丈夫、見たことある光景やから」と答えた。
動物園の脇を通っているときに、三輔が、「ココどこ?」とつぶやいた。それでオレは運転手に、「止まってくれ」と言った。
三輔にもう一度、「住所は分かるか」と声をかけ、三輔は住所ではなく最寄りの地下鉄の駅名を言った。オレは運転手に、「とりあえずその駅まで行ってくれ」と伝え、運転手は、「高架の感じとかが似てますもんね」と言い、来た道を真逆へと引き返した。
目的の駅へ近づくと、三輔は、「そこのスーパーを左」という風に指示した。そして、高架が見えてきたところで、「ここで駐めてくれ。すぐそこだから」と言った。
タクシーを降りて、オレが辺りを見回しながら、
「マンションはどれで?」と言うと、三輔は、
「ココどこ?」と返した。