パーラー_ボーイ君PDF表紙

『パーラー・ボーイ君』

 ある晴れた日の午後、お母さんがサシ歯を作ってくれたので、パーラー・ボーイ君はうれしくて、いろんな物をカジッた。イスにテーブル、食器や花。じゅうたんのカドッコにスリッパ、ドアノブ。階段の手すり、自転車のタイヤに、石、花壇のレンガ。白い塀、隣の家のイヌの後ろ足。オカマの捨てたシケモク。気がつくとパーラー・ボーイ君は家の外に出ていました。
 近所の建設現場でベニヤ板をカジッていると、大工の親方が、
「おい、パーラー・ボーイ君。ベニヤはカジるものじゃなくって、切るもんだ」
 とノコギリを渡してきました。パーラー・ボーイ君はためしにノコギリを使ってベニヤ板を切ってみると、なんだか楽しくなってきて、夢中になって切りました。すると、気がついた時には、山積みにされていたベニヤ板を全部切り尽くしていました。
 パーラー・ボーイ君のあまりの働きぶりに感服した親方が、「若いのに、よく働くじゃないか」と日当をくれました。 
 日当にもらった小銭を、ジャラジャラやりながら、パーラー・ボーイ君が近くに住む叔父さんの家へ遊びに行こうと歩いていると、買い物帰りのヘチマばーさんが飢えたノラ犬にからまれていました。パーラー・ボーイ君はヘチマばーさんのことが嫌いなので、無視して通りすぎようとしたけど、ヘチマばーさんが、
「パーラー・ボーイ君、パーラー・ボーイ君。たすけて」
 と名ざしで助けを求めてきたので、しかたなくさっき貰った日当の小銭を、骨の浮いた脇腹めがけて犬に投げつけて、追い払ってあげました。 
 ヘチマばーさんは、お礼にと、買い物袋の中からパーラー・ボーイ君にマーマレードをあげました。
 パーラー・ボーイ君が家へ行くと、いつもは半裸で生活している叔父さんがスーツを着て出てきました。
「やあ、パーラー・ボーイ君。叔父さんはこれから、お見合いパーティーに行くんだ」
 お見合いパーティーに行って、素敵な美女とフォーリンラブしようという高いこころざしとは、うらはらに、叔父さんの頭はこんもりとフルヘッヘンドしていました。こんな髪型じゃあ、どブスか結婚サギ師ぐらいにしか相手にしてもらえません。
「でもヘアークリームを切らしちゃっていて、困ってるんだよ」
 よわり顔の叔父さんに、パーラー・ボーイ君は、コレを使いなよと、マーマレードを差し出しました。
「ありがとう。おかげでバッチリだ」
 ビシッと横分けた叔父さんは、お礼にパーラー・ボーイ君にメガネをあげました。
 その日の夕暮れ、パーラー・ボーイ君は空き地で、メガネを使って太陽光線を集めアリを焼き殺そうとしていたけど、日差しが弱くて、なかなか上手くいきません。
 不意に後ろから頭をポカッとなぐられ、振りむくと、怒った顔のお母さんが立っていました。イタズラッ子のパーラー・ボーイ君は、いつも怒られているのでヘッチャラです。ニチャと笑ってごまかしました。
 お母さんに手を引かれ、家路につくパーラー・ボーイ君が、頭を叩かれたときに外れてしまったサシ歯を見せると、お母さんは、
「また明日作ってあげるから」
 と言いました。パーラー・ボーイ君は、どうせなら新しいやつは、この夕日みたいにオレンジ色のやつがイイな、と思いました。

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