『パーラー・ボーイ君』Vol.2「ビーフ・チキン君、夢を見る」後編
2人は警察署に連れて行かれ、
「保護者の人が迎えに来るまで帰れないよ」
と言われると、ジェイソン君は声を上げて“ワンワン”泣きましたが、ビーフ・チキン君は“それならそれで上等だい”と、ふてくさります。
ビーフ・チキン君よりも年上のジェイソン君は、もう自分の家の電話番号が言えるので、警察の人が連絡すると、すぐに親が迎えにきてくれましたが、ビーフ・チキン君は、まだ親の連絡先が言えないので、警察の人は話を聞いて大体の見当をつけると、わざわざトレーラーハウスで生活する人の多くいる地域までビーフ・チキン君の家を探しに行きました。
しかし、せっかく家まで行っても、ビーフ・チキン君のお父さんも、お母さんもまだ家に帰ってきていないので、保護者と連絡がとれません。
夜になると、警察の人は近くのレストランから、オムライスを注文してくれました。
いくら、つっぱっていてもビーフ・チキン君もまだ子供です。オムライスを食べてお腹がふくれると、少しホッとしてねむくなってきました。
夢の中でビーフ・チキン君はパーラー・タウンの住宅街を歩いています。
どの家もX,masの飾り付けで賑やかにライトアップされています。
その中を歩くうちに、ビーフ・チキン君はだんだんとキラキラのネオンと家の中からもれる、あたたかな生活の明かりがムカついてきて、
「そうだ! 街から明かりを奪ってやろう」と思いつきました。
ビーフ・チキン君は電線を切ってやろうと、電柱によじ登り始めました。
もう少しで、てっぺんまで届くという時に、ビーフ・チキン君は手をすべらせて、電柱から落っこちてしまいますが、地面にぶつかるまえに、飛んできたソリに拾われて助かりました。
ソリを運転していた赤色オジサンが言います。
「ビーフ・チキン君、あんまりイタズラばかりしていたらダメだよ」
見るとサンタの格好をしているのは、隣に住んでいるウインター夫妻の旦那さんです。
「パーラー・ボーイ君の自転車にイタズラしたバツに、今日はオジサンの仕事を手伝ってもらうからね」
そう言うと、ウインターさんは手綱を振って、ソリを空高く飛ばしました。
ビーフ・チキン君は大きな声で叫ぶように言います。
「サンタクロースなんて居ないんだい!!」
ウインターさんも言います、
「そうさ、これはまぼろしさ! だからなにをやったっていいんだ!」
ウインターさんは、ソリから身を乗り出して、眼下の街を見渡すと、
「くらえ、トナカイのウンチばくだん!!」
手綱を動かし合図すると、トナカイはフンをひねりだし、それが遥か下を千鳥足で歩く、ビーフ・チキン君のお父さんの頭の上へ落っこちました。
腹を抱えて笑いながら、ウインターさんは言います、
「これが、今年最初のプレゼントだ!」
ソリはハラルド君の家の屋根に止まっています。
中ではウインターさんが、ハラルド君の枕もとに立って、大きな袋のなかをガサゴソやっています。
「・・・・・・、あった、あった。ハラルド君はと・・・・・・お父さんのアレルギーが治って、家で犬を飼えるようになりたい」
ウインターさんが、袋の中から取り出した白い箱に書かれた文字を読み上げると、箱はスーッと雪がとけるように消えてなくなりました。
ビーフ・チキン君はヨコでその光景を不思議そうに眺めています。
「よし、次いくよ!」
ウインターさんは何も説明せずに、屋根の上のソリに戻りました。
ラロッカちゃんの家では、「もう少し、まつ毛が長くなりたい」と、パーラー・ボーイ君の家では、「ツメを切るのが恐いから、あんまりのびないでほしい」と箱に書かれた文字を読み上げました。
「ねぇ、ねぇ、なんなの? なんなの?」
「みんなにプレゼントをくばってるのさ」
ビーフ・チキン君の問いに、ウインターさんは当然の事のように答えます。
「これがプレゼントなの! ハラルドは新しいテレビゲームを欲しがってたし、ラロッカはDiorの財布。パーラー・ボーイはピアニカを欲しがってたよ!」
「みんなモノじゃなくても、欲しがってるものがいっぱいあるさ。でもそれが、デパートで売っているものじゃないと、自分がそれを欲しがっている事にも、手に入れた事にも気づかないけどね」
「・・・・・・?」
「さあ、次はとっておきだぞっ」
ウインターさんは最後の家へ向かってソリを飛ばしました。
着いたのは、ボロボロのトレーラーハウスです。
「ココは、オレの家だ」
ビーフ・チキン君は意外そうに言います。
「もちろん、ビーフ・チキン君にもプレゼントはあるさ」
「でも、おれ、おれ・・・・・・」
「もう寝なさい。明日になったらプレゼントがあるよ。気づかないかもしれないけど」
ビーフ・チキン君が眠るのを待って、ウインターさんは、白い箱に書かれた文字を読み上げました。
7ヶ月後、ビーフ・チキン君のお母さんは、いくつも掛持ちしていたパートを全部辞め、新しく内職の仕事を始めました。
お腹が大きくなったので、外では働けなくなったのです。
おかげで散らかり放題だった家の中もキレイに片付いて、ゴハンも毎食お母さんが作ってくれます。
お父さんは、2人目が出来たのがキッカケで、わずかに残っていた、父親としての責任感を刺激されると、まじめに働きだしました。
元々はメジャーリーガーを目指すほどの頑張り屋さんです。今でもたまに大酒を飲むことがあるものの、前の日にどれだけ飲んでいても、仕事を休むことだけはしません。
ビーフ・チキン君は、お母さんのお腹をさすりながら言います。
「女の子だったらいいな、オレ、前から妹がほしかったんだ
(おわり)