【創作BL小説】箱庭の僕ら 8話
【光の箱庭は残酷だった】
俺のことを少し話そう。
俺は、小さい時に父親を事故で無くた。しばらくして、俺が5、6歳くらいの時に母親は再婚した。
新しく父親になった人は優しい雰囲気で、母さんより少し年下、堅い仕事に就いていて経済的には申し分ない、母さんは楽しそうに暮らしていた。
その人は俺を殊の外可愛がり、俺が欲しがったものは何でも買ってくれた。
でも実の子でないし、まだ慣れてもいないのに、スキンシップが今思えば過剰だった。
俺は血の繋がらないこの相手との過剰なスキンシップが気持ち悪く、体はこわばり手足は突っ張り、生理的に嫌悪感を感じるようになった。
俺の頬にキスする相手を見て、母さんは「本当の親子みたい。お父さんと仲良しで母さん、うれしいわ」と言った。この言葉が俺の中で「呪い」となって、ずっと逃げ出せなかったんだ。
母さんの見ていないところでのスキンシップは次第にエスカレートしていき、俺は幼かったから、この愛情に擬態させた行動の意味がわからなかったけど、体感的に何かおかしいと感じていた。
でも、自分の母親が信頼している大人を信じてしまうのは、幼い子どもにとって当たり前で、その不快な気持ちを押し殺し、相手の言うなりになるしかなかった。
この父親もどきは、「このことは、ふたりの秘密だよ。光が好きだからお父さんはこうやってかわいがっているんだ」と言ったり、「お母さんに言うと、仲間はずれにされたって怒って、家族がバラバラになってしまうよ」
と言った。それを信じたあの頃の俺はバカだ。
あの日、善が靴を貸してくれた日は、ちょうどクリスマスで、いつも家では部屋に鍵をかけてこもっているのに、母さんが仕事から帰ってくる前にパーティーの準備をしようとあいつに言われて、一緒に準備していたんだ。
そうしたら「クリスマスプレゼントだ」と言われて、頭を押さえられて無理矢理キスをされ、服を脱がされそうになった。俺は必死で振り払い、裸足で外に飛び出した。
電柱にもたれて息を整えていると、暗闇から追いかけてきたあいつが急に出てきて、喉がヒユッと鳴った。心臓が縮み上がり、こわばった体をどうにか動かして逃げた。
小学校の高学年ともなれば、義父からされていることが「異常なこと」「恥ずかしいこと」である認識はあった。身近な信頼できる大人に助けてもらいたかった。
一度、クラスの担任に打ち明けようと思い、勇気を出して話しかけた。義父の過剰なスキンシップに悩んでいると。その中年の先生は、採点中のテストから顔を上げると、「お父さんは光くんと仲良くしようと必死なのね」と笑顔で一言言うと意識をテストの採点に戻した。
““仕方がない、先生は忙しいんだ””と頭の中の声は言ったけど、何とも言いようのない黒い絶望感が心を覆った。
それをきっかけに自分の母親を含め、大人は信じられないと強く認識した。
大人たちは、俺の表情や言葉の背後を見ることなく、ただ毎日が平穏に過ごせるように注力しているにすぎず、みな自分のことで精一杯で、俺のことを気遣ったり、愛したりしてくれる人はひとりもいないのだと、世界はそういうものであるということを悟った。俺の心はいつもほの暗い何かに覆われるようになった。