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【創作BL小説】箱庭の僕ら 6話
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【善の箱庭に、もう光はいない】
光がいなくなってから、俺の心はポッカリと穴が空いたようになって、新しく始まった高校生活も、なんだか惰性で過ごしていた。
俺は宗教二世だから、それでもやる事は多くて、日々の布教活動や学びの会なども頻繁に参加しなければならず、光のことを考えないで過ごす時間も増えた。
でも、1日の終わりのホッとする瞬間は、必ず光のことを思い出して、光からもらったノートを見て過ごした。
「光はどうしてるかな?寮生活は慣れたかな…」
なんて思いながら眠りにつく。時々、光と最後に会ったあの高台の公園で、光が俺の頬にキスしたことを思い出してはベッドの中で悶絶していた。
「あー、俺は罪深い」
だから、自分から連絡することは出来なかった。光への思いを封印すると決めたのだから。このまま時が経てば光への想いも薄れるだろう。
そして、穏やかでかわいらしい女の子と結婚すれは、光への想いを完全に過去のものにできる。あと10年くらいか、長いな・・・
そう思っているのに、なぜか目尻から涙が染みてくる。俺は何がそんなに辛いんだ?教義には「女を見続けて、情欲を抱くものは、もはや罪人だ」という教えがある。
それなら、俺はもはや罪人なんだ。それも同性愛という大罪の。こんな俺を神様は許してくれるのか?いや、神様なんて本当にいるわけがない。終末が来るなんてことも無い。どうしてこんなくだらないことを、大の大人たちが真剣に信じてるんだ?
でも結局、俺にはここしか居場所が無い。ここを離れて生きていけない。情けないけど、それなら・・・ここにしがみつくしかないだろう?
異なるふたつの思いが、心のなかで渦を巻いて、体が引き裂かれそうだ。光を慕う思いと、光を拒絶する思い…
この苦しみは、いつか終わるのだろう。光を完全に忘れるその時に…
高校で再会した幼なじみ
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ある日、学校でひとりの女子に声をかけられた。ロングヘアで色白、清楚な感じの可愛い子だ。
「善くん、久しぶり。わたしのこと覚えてる?」
見覚えはあったが、名前は出てこない。
「えっと・・・」
「軽部美智、わかんないよね…10年以上前だもん。」
そういえば3、4歳の頃だったか、親の友人家族の娘で、よく家に連れてこられてた子だ。小学校を上る前に引っ越してしまったけど、なぜここに?
「あー、美智、あの美智かー!え、ビックリ、同じ高校?」
「お父さんの転勤の関係で戻ってきたんだよ。善くんがここ受けるって風の噂で聞いたから、あたしも頑張って勉強したんだ。善くん、頭良かったもんね!」
風の噂って?と聞こうとしたけど、まぁこの組織の中では、ままあることだ。面倒くさい、、
「そうなんだ…え、二世まだやってるの?」
「やってるよ~。あたし、あそこしか居るしかないもん。善くんは、今も立派に組織の中で頑張ってるってお母さんが言ってたよ」
たしかに俺の両親は宗教組織の中で、上の方の人間だ。だから組織内で少し有名だし、俺はその息子として、いつも立派な振る舞いをしなきゃいけなかった。
でも俺自身は、そんな品行方正な人間じゃないし、現に光のことで、心の中はぐちゃぐちゃだ。
俺の見た目だけで、立派だと信じ込んでる信者は多い。結局、みんな立派だ、立派じゃない、素晴らしい、素晴らしくないとお互いにジャッジしあって楽しんでるだけなんだ。
俺の光への気持ちは、誰ひとりとして受け止めてくれる人はいない。この子に言ったらどんな顔するかな…自嘲しながら、簡単なあいさつだけして、美智と別れようとしたら、
「善くん、今度ご家族も一緒にうちに遊びに来て。お母さんが食事を招待するからって言ってた」と言われた。
この組織の中では、頻繁に信者同士がお互いに食事を振る舞うことが慣習化されている。
信者間の友好を深め、共に励まし合うのが目的だが、俺はこの慣習がめんどくさくて大嫌いだった。どうしたら、この誘いに乗らずに済むか考えたのが一瞬表情に出てたのだろう。
美智は、
「お母さんに頼まれちゃってるから、善くんがご家族に伝えてくれないと、わたしが怒られちゃう」と、言ってきた。
けっ!めんどくせぇ、俺抜きで勝手にやってくれ、と思ったけど、俺はいつもの仮面を被り、美智を見てニッコリ笑い、「わかった、伝えておくよ。楽しみだね」と言った。
美智の家族との食事
結局、両親に美智に会ったことを伝えると、大喜びで双方家族のスケジューリングがされ、俺は軽部家に招かれることとなった。
俺は組織の人間と会うときは、それ用の優等生の仮面をかぶっている。学校ではほぼ素の状態だけど、器用に瞬時にその仮面を装着、着脱できる。我ながら素晴らしいワザだと思う。組織の人間は、仮面の優等生が俺の本質だと思っているから、美智と同じ学校はやりにくくて仕方がない。
俺の学校生活の平穏のために、出来れば美智とはあまり仲良くなりたくないのが本音だ。
なのに家族ぐるみでの付き合いだなんて・・・・俺の学校での行動が、美智からその両親、そして美智の両親から俺の親へ筒抜けじゃないか!全く面倒くさいことこの上ない。
美智の家族は、昔を懐かしみ、親同士の会話はとても盛り上がっていた。俺はただ口角を上げて、時間が過ぎ去るのを待っていた。
「善くんは、本当に立派になったわね。将来、組織の中でも有能さを発揮してくれるでしょうね。楽しみだわ~」
「そんなことないのよ、まだまだなのよ。一応将来は、海外で宣教活動をしたいらしいから、英語教育に熱心なあの高校に入学したのよね、善」
「そうだね、母さん。世界的な組織だから、海外で自分を役立てる事が出来るのは、喜びだよ」
と、笑顔を貼り付けた顔で俺は答えた。この歯の浮くような会話、自分で言ってても虫唾が走る。ただ、ただ海外に逃げたいだけだ。海外であれば親も追ってこれない。
しばらくたって、美智が寄ってきて、こそっと俺に耳打ちした。
「それ、わたしも連れてってくれるんでしょ?」
俺は不意打ちをくらって、怪訝そうな顔を隠すことが出来なかった。
そして、美智は、俺が度肝を抜かすような事を平気な顔で言ったのだ。
「だって、わたしたち、結婚するんだものね」