日本武道館への道① 世界は、普通の人がつくっている
【世界は、普通の人がつくっている】
「企業のミュージックビデオをつくる」
それを思いついたとき、理解を示してくれる人は皆無だった。
つくろうと思ったのは、
「私たちが暮らす世の中をつくってくれているのは、普通の人たちで、自分もその中の一人なんだ」
と天啓にも思える気付きからだった。
家も電車も歩道橋も、当たり前のように踏みしめている地面も、誰かが知らぬ間につくってくれたもの。
この、ごく当たり前のことを閃いてから、その「普通の人たちを讃えたい」という想いに取り憑かれた。
「普通の人が何気なく働いている姿はアート」なのか、と考えた刹那、どんな想いで働いているのかを謳った歌詞と音楽、真剣に働く横顔や手際良く動く手もとなどのイメージが重なってフラッシュした。
そして、自分がつくるべきは「ミュージックビデオ」だと信じた。
閃きから、ここまで0.5秒。
それから、ミュージックビデオをつくる仕事をはじめるため、営業に討って出た。
既存クライアントの中から気鋭の経営者О社長に狙いを定め、О社長のためだけのプレゼンテーションをつくり、О社長の会社に乗り込んだ。
私の渾身のプレゼンを聞いたО社長はひとこと。
「こないだ映像つくっちゃたんだよね〜」
続けざまに映像に予算を割くことは役員らが納得しないとてへぺろしてるО社長の両肩を掴んで揺すり
「絶対にこの企画やってくれる社長、紹介してぇ〜!」
と丁重にお願いした。
そしてご紹介いただいたのが、東京は大井町にある三和電気株式会社・宮崎社長だった。
私は三和電気株式会社のことをできる限り調べ、ゼロからプレゼンテーションをつくりなおした。
私の渾身のプレゼンテーションを黙って最後まで聴いてくださった宮崎社長はひとこと。
「やりましょう」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
その場で全ての日程を決め、全社員さんへのインタビューがはじまった。
これで、世の中を蔭で支えている人たちを讃える作品を(まずは一つ)つくられる。
感無量の想いで、初のインタビューに臨んだ。
そこで私は、予想だにしなかったショックを受けることになる。
(つづく)