ある密かな恋⑦
(↑前編 ある密かな恋⑥はこちら↑)
マナについて印象的な思い出の1つに、6年生のときのある日の給食があった。
そこからマナに対して僕は本氣で惚れたのかもしれない。
確か5月頃だったように思う。
僕とマナは同じ班になった。確か席も隣か前後だったと思う。
マナと間近に居た日々。不思議と記憶が薄い。
もしかすると刺激が強すぎたのかもしれない。
6年と書いたがもしかすると、5年のときだったのかもしれない。
プリントを渡し合うその瞬間すら、マナとの接点を感じて嬉しかったことは覚えているが、あまり他の場面はつぶさには思い出せないのだ。
でもこれだけは色鮮やかに覚えている。
班単位に席をくっ付けて給食をとっているときに、マナが僕の机の上に敷いた給食のナプキンを見て言った。
「〇〇(←僕のあだ名)センスいいね!」と。
とても嬉しくて心が動いた感覚は覚えている。もう20年以上経つのに、はっきりと覚えている。
「ああ。好きな人に嬉しい言葉をかけられるのはこんなにも幸せなんだ」と。
あの時に戻り、同じ班の体験をもう一度できるのならば、いくらお金を出してもいいとさえ思う。
あの同じ班の時が、一番マナの近くにいて他愛のないおはなしをできた瞬間だったと思う。
マナと「自分の眼は二重で、私の眼は奥二重」とか。「メガネを外したほうがかっこいいよ」とか。
本当に他愛のない話をしていたと思う。
その他愛の無さが、本当に今振り返るとありがたい経験だったと思う。
一番マナと僕との距離が近づいたときだった。
その頃の僕は外見にも自信がなく、運動能力にも自信がなく、自分の力にも、性格にもコンプレックスを感じていた。
何だろう。堂々と生きていくしか無いのに、それが出来なかった。自分でなんの特技も無いと思っていた。
周りを見て、運動神経が良い人や、スマートに話ができる人を羨んだ。
いちばんはそうやって自分で自信を無くす方向に考えること。改善する行動を取らないことなのだ。
何よりいけないのは嫌われることを過度に恐れることだと思う。
ふと仕事でくすぶっているとき、マナを前にして引っ込み思案だった自分が顔をのぞかす。
いい加減、そんな性格は捨ててしまいたいと思うのだ。
それがどれだけマナとの関係作りに障害となったか。
確かに致命的には嫌われずに済んだのかもしれない。
しかし、そのことによって仲良くなれたはずの未来を想像して後悔で胸が痛むことがある。
正直言って仕事の人間関係でも、この悪癖を引きずってきて、うまくいかなかった面は明らかにあると思うのである。
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