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誕生日パーティーは Shik Shak, "SHOCK"!

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ある日のこと-

学校から家に帰ると、同居人ヤスミンがマハシ(ピーマンやズッキーニ、茄子、トマトの中身をくり抜き、そこにお米や野菜を詰めて煮たもの)とモルヘーヤスープを作っていた。

おや?と思った。彼女が台所に立って手料理だなんて、あまりにも珍しい。毎晩外食かテイクアウトの食事ばかりだったから。


この頃、私はエジプト人女性二人と、ひとりのエジプト人少年と一緒に、カイロの閑静な高級住宅街の邸宅(villa)に住んでいた。

同居人のヤスミンはイギリスの寄宿学校で育ち、アメリカン大学カイロに通うお金持ちの女子大生、

そしてヤスミンの従姉妹でシングルマザーのワルダ、そしてそのワルダの息子だった。

まあいろいろあったが、それなりに彼女たちとの共同生活をうまくやっていた。


大量チキンの骨とニンニク、玉ねぎとモロヘイヤをグツグツ煮込むスープのいい匂いが立ち込めている。

ヤスミンが振り返り、私を見るとニッコリ微笑んだ。

「Lolo(私)の分も作っているわよ。たまにはみんなで食べましょう」。

おや、やけに愛想がいい。

今までこんな面倒くさい手料理など、作ったこともないし私にご馳走する、ということも皆無だったくせに...

私が訝しく思っていると、案の定ニコニコして甘え声で

「Loloにお願いがあるの」。


「お金なら貸せないよ」

突先に思わず口にでた。

「借金の申し込みじゃない。」

あ、しまったと私。

「ごめんなさい。(エジプトに住んでいると)つい条件反射で...」。

"一つ頼みがある"とエジプト人に言われると、つい"またか"と思って、咄嗟に"お金はない、貸さない"と口から出ちゃうのだ。


「実はもうじき、私の誕生日なのだけど、この家で誕生日パーティーをしたいの。

パーティーといっても女友達を3,4人呼ぶ程度よ。でも(共有スペースの)サロンとリビングルームを使いたいのよ。いいかしら」。

...

エジプト人の若い女が集まって、うちでお茶会を開くというわけか- うるさそうだなあ..

そんなことはマクドナルドでやってほしい、と思った。マクドナルドではしょっちゅう、エジプト人の子供達の誕生日会が開かれている。


しかし、ヤスミンはか弱い声を出して

「ほら、私は子供の時からひとりでイギリスの寄宿学校に入れられていたでしょ。

エジプトでの幼なじみとか全くいないけど、帰国後やっと作った親友たちなの。是非とも自分の誕生日に彼女たちを呼びたいのよ」。

そしてイギリスの寄宿学校で孤独だった話までし始めた。

それをいわれちゃうと、嫌だだなんて言えない。

それによくよく思えば、アメリカン大学の友達を呼ぶだろうから、まあ洗練された上品な女子大生たちが来るのだろう。それにうっかり忘れていたけど、ヤスミンはこのvillaの大家の娘だ。

だから

「どうぞどうぞ。何か手伝えることがあったら、何なりと声をかけてね。せっかくのあなたの誕生日パーティーだから」

と笑顔で快諾をした。


ところが-

ヤラレタ!!


女友達3,4人だけの招待、とはっきりいっていたのにこれはどういうことか!?

当日、昼頃から玄関呼び鈴の音が途絶えないのだ。

次々にエジプト人の若者たちがやってきた。しかも女だけではない、男も。いや、むしろ男ばかり来るんだが、どういうこと?

どうも、彼らはヤスミンが大学ではなく、街の盛り場で知り合った若者たちだった。しかも直接の友達ではなく、友達の友達の、そのまた友達までやって来る。

次々にやって来る彼らを眺めて、「ははん」と分かった。


エジプトでは、未婚の年頃の若い男女が大勢、誰かの家に集まるだなんてまずない。

なぜならみんな必ず親の家に住んでおり、ましてや学生、しかも女の子が親の家を離れて独立して住んでいる、だなんてまずありえないことだ。

だから、エジプトの若者にとって、誰の親の見張りもない家で、ましてや独身女友達の家で、男女混同パーティーが開催されるなんて夢のような話。

あまりにも物珍しい非常に稀なことだし、会費徴収もない。それで口コミで大勢集まってきてしまったのだ。


結局、30,40人集まった。しかも、やはりほとんど男...

私は慌てて自分の寝室の扉の鍵を外側からかけ、しかも念のために、貴重品を肌身離さず持った。自分の家の中なのだけどネ...


さすが誰も、食器棚にある、私のウィスキーには手をつけなかったが、彼らはホテルのバイキングのように、承諾なしで人の家の冷蔵庫をあけ、ジュースやコーラをがぶがぶ飲む。

人の家のお菓子やパンも勝手にむしゃむしゃ食べ、青年たちはスパスパ煙草を吸う。おかげで食べかすや吸い殻が絨毯の上に落ちまくっている。

さらにエジプト人は無類の電話好きなので、人の家の電話を次々に占拠。

それだけじゃない。彼らは、"私の"SONYダブルデッキ&CDプレーヤー付ラジカセを勝手にいじりまくり。

なぜあらかじめ隠しておかなかったのだろう、と後悔しながら、壊されないか盗まれないか、ハラハラして片時もラジカセから目が離せない。

肝心なヤスミンは念入りのメイクや衣装選びに時間がかかり、息子のアフマドを連れたワルダも、ヤスミンの自室に篭ったまま。

だから、私ひとりで家中を見張るしかなかった。


私がうろうろそわそわしていると、ザマレックのエルボーグホテルで働いている、という青年が馴れ馴れしく声をかけてきた。

その彼の顔を見ると、思わずあっと声を上げそうになった。青年の、あまりにも太く立派な眉毛が"一本"になっているのだ。

何かを思い出すな、と思いきや、あ分かった。恵方巻だ。その青年の一本繋がり眉毛は、見れば見るほど豪快な太さで、まさに恵方巻そのものだった。

恵方巻君は私に挨拶をした後、突然質問をしてきた。

「日本の坊主はみんな焼身自殺するって本当か?」

...

女友達の誕生日パーティーで、異国の僧坊の焼身自殺の話を、いきなり初対面の外国人女性にふってくる-

エジプト人というのは、こちらが油断していると、想像を越えた"変化球"を投げてくるから、油断ならない。

「いや、それ、チベットだから。ジャパンじゃないから」。

すると恵方巻君は、大袈裟に驚い顔をし、恵方巻眉毛がぐにゃっと崩れた。

「オー、チベット!」

恵方巻君は無言になって、その場でタバコを吸い出した。そしてそこに現れた、男友達に

「チベットでは、坊主が焼身自殺するんだ」と得意顔で言った。

その友達も「おお!」と感心顔。

一体なんなんだ、不可解にも程がある...


そうこうするうちに、ヤスミンが自室から出てきて、ようやく登場した。

全員が息を呑んだ。

なぜなら、彼女はノースリーブで胸元が開いたブラウスとミニスカート姿だったのだ。

エジプトでは親しい女友達や女の家族以外の前で、こんなあらわな格好を見せるだなんてありえない。

もしこの格好のまま外に出たら、石を投げつけられるのは確実だ。


シーンと静まり返ったが、すぐに青年たちからは声援が上がり、口笛が始まった。

女の子たちを見ると、軽蔑するような表情をしたり、おかしくてたまらない、とクスクス笑ったりまちまちだった。

「どうして、こんな身なりをするのを許したんだ」

私が従姉妹ワルダに耳打ちで尋ねると、彼女は肩をすぼめた。

「もちろん、反対したけど言うことを聞かなかったのよ」。


ヤスミンは"私の"SONYのデッキに自分のカセットテープを入れ、shik shak shokという、当時流行っていた歌を大音量でかけた。

イントロが流れるやいなや、彼女は狂ったかのように、ベリーダンスを踊り出した。

しかも、あらかじめ用意していた、手品師のようなスティックを振り回し、シルクハットも被ったり脱いで飛ばしたりしながら、全員が見つめる中、ひたすら身体をクネクネ。

サロン広間ど真ん中で、まさに独断ベリーダンスショーだった。

shik shak shok、shik shak shok、shik shak shokとヤスミンは口ずさみ、スティックとシルクハットの小道具をフルに使い踊りまくり。 (ちなみにshik shak shokは特に意味はない造語です)

イギリスで育とうがなんだろうが、ベリーダンスを踊れるのがさすがエジプト人のDNA。

しばらくすると、青年たちはレロレロレーと喉を鳴らし、そして何人かも彼女と一緒にベリーダンスを踊り始めた。幼いアフマド少年も当然ベリーダンス。笑

一方、女子は誰ひとり踊らない。まあそれも当然。プロのベリーダンサー以外の女性は、身内以外の異性の前でベリーダンスをしてはならない。


Shik shak shok、Shik shak shok
Nassik ya habibi il rap w il rock

(ダーリン、私がラップ(ミュージック)もロック(ンロール)も忘れさせてあげるわ)

Wi ta aala nir'os baladi

(さあ、いらっしゃいな。一緒に伝統舞踏を舞いましょう。)

Shik shak shok, Shik Shak Shok, Shik shak shok

片足でリズムを取っていた女の子が、ヤスミンと青年たちの輪に加わり踊ろうとした。が、他の女の子たちに怖い顔をされ制止された。


曲が終わったころ、ヤスミンの元カレが、現れた。日頃しょっちゅうやって来る、スポーツジムトレーナーだ。

職業は普通だけど、親がお金持ちらしく、何だかやたらと羽振りが良かった。

ヤスミンとはとっくに別れて、それぞれ他に彼氏とカノジョがいるのに、この二人は毎日電話しあって、そしてしょっちゅうこの家で二人きりで会っていた。


前も書いたけど、エジプト人あるあるで、過去の彼氏/カノジョに連絡し続けるのはよく聞く話。

私の知り合い日本人女性は、日本でエジプト人のご主人と暮らしていた。お子さんもすでにおられる。

が、それを知っているのにも関わらず、ご主人の元フィアンセだった女優のエジ子さんが、エジプトからしょっちゅう国際電話をしてきた。

日本人の妻が

「あなた、もう彼女に電話をかけてくるな、ときっぱり言って!」

と頼んでも、ご主人は元フィアンセの国際電話を取るたびにデレデレし、いつも長話をしていたそうな。

これと同じような話は百回は耳にしたなあ...


元カレ君は、大勢の分のピザハットを持っていた。気が利いている。全員、歓声を上げ大喜び。

ベリーダンスは中断され、全員でピザをむしゃむしゃ。ちなみにエジプトのピザはラム肉が入っているものが多い。辛エジプト人も辛口味が苦手なので、まったく辛くはない。

また、誰ひとりビールは飲まないで、コーラとスプライトだけというのが、いかにもエジプトの若者たちだ。


和気あいあいと食べていると、再びピンポーンと鳴った。

「まだ誰か来るのか...」

やれやれ、と私がドアを開けると、そこには警察官の、ヤスミンの今カレ君が立っていた。部外者のこっちが心臓止まりそうになった!

今カレ君は、今日は勤務があるので寄れない、と言っていたらしいのだが、何かがあって急遽顔を出せることになった。

事前に電話して「今から向かう」と伝えようとしたが、ずっと誰かがうちの電話を順番に使っていたため、全然繋がらなかったという。だから突然やって来たのだそうだ。

今カレ君は驚いた私をよそに、ずかずかと中に入ってきた。

あまりにも大勢の人数、そのほとんどが男であることに、彼は呆気に取られた。

さらに、自分の彼女が腕と脚と胸元をパカッと晒した格好をしているのを見てギョッ。

その上、自分のカノジョの真横の椅子に、カノジョの元カレ君が腰をかけ、一緒にピザを食べている。

今カレ君は身体が固まり、もう絶句。

次第に怖い表情になり、無言でヤスミンの腕を引っ張り、中階の彼女の寝室に向かった。

そしてドアを閉めたのだが、怒鳴り声、喧嘩の声が階下のサロン広間まで響いて聞こえてくる。


普通はここでパーティーはお開きになってみんな、退散するものじゃないかと思う。

ところがさすがエジプト人。誰ひとり帰らない。

全員、露骨に興味津々で、ヤスミンと今カレ君の罵り合いのやり取りに夢中で聞き耳を立てている。

それだけじゃない。女の子の数名はヤスミンが消えた今がチャンス、と言わんばかりに、ワルダや私に

「ヤスミンは日頃、彼氏を家に入れているのか」

「密室で二人っきりになっているのか」という質問を根掘り葉掘りしてきた。

さらに私には

「日本では男女交際や婚約はどういう感じなのか」

「結婚前に男女が深い関係になるものなのか」

「処女膜再生手術は日本でもポピュラーなのか」。

『セブンティーン』の雑誌でもあれば渡して勝手に読んでもらいたいぐらいだったが、

でもま、確かに異国の若者の恋愛事情には興味を持つものですな。(ちなみに「日本ではみんな真面目に男女交際しています」と答えておきました。笑)


しばらくして、やっとヤスミンは今カレ君と、一緒に部屋から出てきた。でも肌はすっかり隠していた。

羽織った長袖カーディガンでノースリーブの腕を見えなくし、そしてミニスカートも長ズボンに穿き替えられていたのだ。

そして元カレを完全無視をするよう、今カレに言われたのだろう。

ヤスミンは元カレ君が何を話しかけてきても、顔すら上げなかった。さきほどまで見つめって楽しそうに二人でピザを頬張っていたのだが。

と、元カレは面白くない。だからヤスミンに向かい、顔を真っ赤にし大声で怒鳴った。

すると今カレ君が立ち上がった。

これで火蓋が切られ、今カレ君と元カレ君は怒鳴り合いを始めた。

他のエジ男君たちは「まあまあ」と仲裁。殴り合いにならないよう、二人を引き離そうとしている。

エジ子さんたちは、ワクワク顔で目を輝かせて見物。


結局、エジ男君全員の説得で、元カレ君が退散した。(ま、当たり前...)

そして、仕切りなおしをしよう、と誰かが"私の"SONYデッキの音量を最大限に大きくし、またベリーダンスをしたり、大声で冗談を言い合ったり歌ったり、そしてふざけあって悲鳴を上げながら追いかけごっこ。

ジュースもピザのソースもいっぱいカーペット上にこぼすし、家の中はまあめちゃめちゃ。今カレの警察官君は始終不機嫌。


この家の大家である、ヤスミン母が突然現れたのは、その翌日のだった。

会ったのは初めではなかったが、相変わらず美人で、お金持ちマダムオーラを放っていた。が、この日はまさに鬼のような形相だった。

「近隣の人々から、うちに苦情電話が相次いだのよ、お母さんは恥ずかしいやら情けないやら!」

やっぱりな、と思った。2,30人があれだけ騒ぎ続け、音楽もガンガンかけていたのだ。近所から苦情が入らないわけがない。

「もうこの家にあなたたちを住まわせておけません! 

もともと、ここは売りに出していたし(そうだったのか!)、やっと買い取ってくれそうな、イギリス人ファミリーが現れたわ。

さあ一刻も早く、全員出ていきなさい! 

出ていかないと、もうご近所さんたちも黙っていないでしょう。大きな問題に発展する前に全員、消えなさい」。


エジプト人のオバチャンというのは強烈で、わめきだすともう収集がつかない。絶対、相手の弁解や謝罪も全く聞き入れない。

なので、大至急解散&追放となった。


一週間以内には出ろ、と有無を言わせず命令されたので、さあ大変!

参った、また引越しだ、あ~あ! Shik Shak " SHOCK!!!!


(物好きな方がいれば、是非とも聴いてみてください。めちゃめちゃ流行りました。これディスコ(クラブ)でも、shik shak shok (※意味はとくにない造語) が流れると、エジ男君は全員総立ちし、踊り狂いまくっていました。このYouTubeも再生回数が9800万回超えとか、いまだに人気の歌です。)

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