デジタルバレンタイン(#毎週ショートショートnote)
「ハイ、あなた」
おばあちゃんの声がした。
見れば今年も、お仏壇には塩豆大福。
まあ確かに、おじいちゃんの好物ではあったけど。
「バレンタインの日ぐらい、チョコにしないの?」
おばあちゃんは目を見開き、頬を染めた。まるで少女みたい。
「昔1度作ったのよ。失敗して渡せなくてね。
でもおじいちゃん、和菓子の方が好きだって言ってそれきり。
・・・食べたかったかもね、ほんとは」
「じゃあ今から送ろうよ、チョコ!」
「だって買ってもないのよ?」
「大丈夫、間に合うわ!」
私はスマホのアプリを立ち上げる。
青い銀河の映像が現れ、チョコのかかった赤いハートが回りながら出現した。
「おじいちゃんを想いながら、このハート押してみて。」
細い指が恐る恐る画面に触れた。
ピッ。
「あら、消えたわ!」
驚くおばあちゃん。
ハートのチョコは時空を超えて、今頃おじいちゃんの手の中だ。
1年に1日だけ解禁される奇跡のアプリ。
開発の苦労もこれで報われる。
ひと月後のおばあちゃんを見るのが楽しみだ。
(420字)
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