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自転する日記 2月20日 猫に恋

グレコが、今日で丸4日来なかった。
最後の日に6時間も眠りこけて、ようやく目が覚めて出てゆく時には、出会ってから初めてといっていいくらいになぜか不愛想だった。

話しかけると必ず返事をする猫で、呼びかければ、たとえ去っていく時でもいちいち律儀に鳴きながら遠ざかるほどのお喋りだったのに。
15日の夕方は、どれだけ声をかけても無言のままで、ただ静かに、出ていった。
それきり。

今まで日に2度、3度来るのも珍しいことではなくて、車で買い物から戻ると玄関先で待っているのも見慣れた光景になっていた。
でも、もうそれどころか他の猫とケンカをしている様子もないし、庭で呼んでもまったく反応がない。
そもそもはお隣がねぐらだったので、前は呼んでおけばどこからともなくやって来たのに。なにか気配がまるでしない。
さびしい。

ミモザが死んだあと、少ししてから突然お隣に現れたグレコ。
すでに成猫といえる大きさだったけれど、初めて見た時はほんとうにキレイで、とても野良とは思えなかった。バランスの取れた黒白のハチワレで、純白に輝く長い胸元の毛並みとか、土の上をまったく歩いてはいないような真ピンクの肉球とか。
捨て猫だと思うのが自然かもしれないけど、あまりにきれいすぎてそうは見えなかった。私にはある日突然、ポンとその場に「置かれた」ような気がしてならなかった。
置かれたというか、天国から不思議な力で派遣されたというか。

ミモザと通じる点は猫というだけで、性も柄も性格も、何ひとつ共通するものはない。にもかかわらず。
彼女は独占欲が強く、かなり嫉妬深かったから、自分と同じメス、同じ柄は却下だったんだなあと、打ち解けるにつれ、自然とそう考えるようになっていったんだけど。

猫歴半世紀の私が初めてまともに向きあった唯一のオス猫だ。大切に世話をしながらも、相思相愛、以心伝心の関係になるまでには長い時間がかかったツンデレなメスのミモザとは対照的で、野良のくせに?、初めて出会ってからべったりと離れなくなるまで2か月もかからなかった。

あのスピードはなんだったのだろう。お互いに、まるで恋に落ちたようだった。日記だから多少キモい記述も有り。
オス猫がこんなにストレートに甘えてくる生きものだとは知らなかった。

今頃どこにいるんだろう。
オスの本能で新たなメスの匂いを嗅ぎつけ、ちょっと遠くへ旅に出たんだろうか。それとも居心地の良いどこか他のお宅で、ぬくぬくと暮らしているんだろうか。
それとも、現れた時も突然だったから、消える時も突然なんだろうか。ミモザがやっぱり嫉妬して、もうお前はお役御免と彼を引き上げてしまったのか。

人間どうしでは言えないことがたくさんある。
それを猫に言葉で伝えるわけでもないんだけど。
なぜか一緒にいると、そういうゴニョゴニョ靄った気分もいつの間にか晴れている。

あのハマグリのような、カネゴンのような横に広がった肉付きのいい頬にまたさわりたい。猫にしては小さい耳にも。白くムクムクしたぶっとい前足、先の膨れた邪魔でしょうがない黒いシッポもいとおしい。

グレコ、戻っておいで。
明日はきっと来いよ。

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