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事業拡大の向かう先に待っているものはなんだろう?(ホテルに泊まって思考ドライブ ⑤:sequence | MIYASHITA PARK)

のっけからタイトルが長い。ようやく夜はクーラーが不要な季節になってきた。前回の記事はこちらから。

会社の老化は止められない

前回のnote記事の最後に「三井不動産のホテルのチェーン戦略について考えていく」と書いたが、まずはその目的のところを整理しようと思ったら、タイトルの話にたどり着いた。

会社を立ち上げる人は「世の中をよくしたい」「こういったことで人を幸せにしたい」「自分の好きなことで食っていきたい」「とにかく自分が金を稼ぎたい」といった、純粋なビジョンで会社を設立しているだろうが、その後会社が長年継続していくと、社長が変わったり、事業拡大に伴ってどんどんそのビジョンがふわふわしたものになっていく。「会社の老化は止められない」という本で、こういったプロセスや「大企業病」の原理が説明されている。

ふわふわしたビジョンというと「明るい未来」「お客様の笑顔」「よりよい生活」とかそういうもので、もう何でもありになってきてしまって、周囲との差別化が図れなくなって埋没していく。

増え続けるホテルブランド

ホテルブランドでも同じことがいえる。今回はsequenceの話に端を発しているので、三井不動産のホテルブランドについてみていく。こちらのページに三井不動産ホテルマネジメントの歴史が記載されている。

1981年に、日本の不動産業界の最大手である三井不動産が設立したホテル運営子会社です。第1号店は1984年開業の「三井ガーデンホテル大阪淀屋橋」です。設立時は「ガーデンホテルズ」と言う名称で運営されていましたが、2006年に現在の名称に変わりました。現在でも「三井ガーデンホテルズ」と言うホテルブランドで、全国の中核都市を中心に数多くのホテル事業のチェーン展開を行なっています。ホテル理念として掲げられている「記憶に残るホテルになる」を実現すべく、きめ細かなサービスはもちろんのこと、客室リニューアルなどを多くのホテルで行なっています。

三井不動産がホテル事業を始めたきっかけまでは書かれていないが、おそらく不動産会社なので、装置産業としてホテル運営に乗り出すというのは自然な流れだっただろう。彼らは後に三井アウトレットパークなどにも代表されるように、どんどんオペレーショナルアセット(箱として貸すだけではなく、その先で運営してなんぼの不動産)に力を入れていくことになる。

そんな三井不動産の代表ブランドが「三井ガーデンホテル」というわけだ。「記憶に残るホテル」というフレーズは特に「記憶に残らない」普通なフレーズだ。1980年台のホテル業界市場はうかがい知れないが、2020年現在で、三井ガーデンホテルは(少なくとも私の印象では)、そこそこオシャレで、ややリッチ、それでいて無難で、間違いないホテル、といった印象だ。

まずもって、アパ・東横イン・ルートインの三大ビジネスホテルに比べて客室がかなり広く、デザインもしっかりしたものが多い。ホテル然とした落ち着いたインテリアでまとめられていて、若者から高齢者、はたまた外国人が泊まっても不自由ないツクリになっている。数多く店舗を出店していくなかで、より「ハズレ」の要素を減らし万人受けする仕様に落ち着いていったと推察される。

しかし、上述したように、こうなってくると特徴のないホテルになっていって、自分たちが標榜する「記憶に残るホテル」から遠ざかってしまう。事業拡大し、コモディティ化が進むと、次の戦略として「差別化」が必要になってくる。その「差別化」の手っ取り早い手段が「新ブランドの設立」だ。

ガーデンホテルをメインに据えてやってきた三井不動産がどんどんブランド数を増やしてきたのはここ10年以内の話だ。

三井不動産のホテルポジショニングマップ

図4

多分探せば似たようなものがでてくるとは思うが、これは私オリジナルで作ってみた三井不動産のホテルポジショニングマップである。基本の「三井ガーデンホテル」があって、立地や部屋仕様などから少し高価格帯の「プレミア」ができた。「セレスティン」は芝にあったホテルを買収して、そこから銀座と京都に店舗展開したハイグレードなリミテッドサービスホテルである。このように基本的にはどんどん高級化していくことで、差別化を進めてきているのだが、それでは新しい旅行の需要を取り込めない。

日本は少子高齢化が進み、若者は旅行業界全体からするとそんなに大きなパイではないが、世界に目を向けるとミレニアル世代(25~40歳)くらいの世代はかなり多く、インバウンドが急増していた2010年台半ばにはこういった世界の若者をターゲットにするということは当然の戦略だ。

そんな背景でできたのが「sequence」ブランドだろう。これまで万人受けを目指していたが、ミレニアル世代をターゲットとしてマーケティング・ブランディングの戦略をしていくと、彼らへ訴求効果のある商品企画となっている。

もとはといえば以前記事で紹介したような大規模チェーン展開していない地元志向が強めの「ライフスタイルホテル」や、小さなデザインホテルがミレニアル世代を上手く取り込んできた経緯があり、そういったホテルの企画の蓄積でマーケットが成熟されてきていたのが、ここ数年なので、三井としては、それらの企画をトレースしながら、大手ならではの効率化などのノウハウを盛り込んでいけば良い。

そうやって誕生したのが、前回記事で紹介した、カジュアルなカフェバーやバンクベッド、自動チェックイン、はたまたインスタ映えしそうな朝食や部屋内アートである。本来、ターゲットを絞っていくと、一般受けしない「変なもの」がでてきてしまうところだが、やはり大企業的な性格からかうまくまとまった優等生的な回答にみえた。前回の最後に「危ういバランスで攻めたような意匠や見所はなくて、こじんまりと枠に収まってしまっている気もします」と書いた通りだ。

うまくいくかどうか、というのはこれからコロナ収束後の反転攻勢を見守る必要があるが、三井不動産グループという大きな企業がこのミレニアル世代をターゲットに絞ったブランドとして「sequence」という模範解答を出してしまったわけだ。

三菱の「ザ・パークキャンバス」と三井の「sequence」が登場した今や、小規模ながら物珍しかったライフスタイルホテルや見せかけのオシャレホテル、インバウンドに媚びたエセ和モダンみたいなホテルは、どんどんこういった大手チェーン店の中に埋もれていってしまう。

補足:三井不動産ホテルマネジメントが運営しない三井不動産のホテル

ここは軽く触れておくだけにするが、三井不動産が開発したもののなかには「三井不動産ホテルマネジメントが運営しない三井不動産のホテル」というのが存在する。何を言ってるのか?という感じもあるが、三井不動産が建物を建ててテナントや業務委託で別ホテルが入るケースもあるということだ。特に都心の超一等地の複合ビルの上階はマンダリンやフォーシーズンズなどの海外の超一流ホテルを誘致している。

今度、京都にできる「THE HOTEL MITSUI」も三井不動産ホテルマネジメントが運営しないホテルだ。MITSUIの名を冠しながら、マリオットという世界的なホテルチェーンのラグジュアリーコレクションというブランドと提携している。

三井不動産はしたたかにも本当に良い場所では外資の力を借りて、一級品を作り上げている。

まとめ:事業拡大の向かう先に待っているもの

今回紹介した三井不動産のホテル事業の拡大の様子は、部分的に見れば日本のホテル業界の拡大のそれとほぼ同じだといえるだろう。インバウンドが増えて、旅行需要の拡大とともにホテルの数も増えて、クオリティも高くなり、今の日本のホテル業界は10年前のそれと比べると格段にレベルの高いものとなっているだろう。

しかしこの先10年、20年後はどうなるだろう。

小さなホテルが独自路線を見出して尖ったものをつくり、その後を追うように大企業が事業拡大を目的にして、ふわふわなビジョンでハイクオリティ(高効率ともいえる)なものを作り続けていく、というサイクルは終わることがないとしたら、結構しんどいだろう。

そのサイクルから抜けるための工夫はなんだろうか、やはりニッチなターゲットに絞って、唯一無二のものを作るしかないのか、ということを考えながら、これが資本主義の定めかという諦めもあったりして、、、

今回は勢いで3500字超。長文お付き合いありがとうございました。

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過去記事はこちらから。


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