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手土産選びに頭を抱えた話
営業職でないので、仕事の関係で手土産を用意する機会は多くないが、それでもこの歳になると、わざわざ時間を取って初対面の方にご挨拶に行く際や、プライベートで先輩や友人宅にお邪魔する際など、手土産を持っていく機会があって。。。
先日、会社の上司から「京都の方に喜ばれそうな、東京銘菓を選んで買ってきてよ」というメールが入って、頭を抱えてしまった。しかも出張に行くのは、その上司ではなくさらに上の役員で、相手先は江戸時代創業の老舗企業。
京都の老舗企業やて、こんなん無理ゲーやん。どないすんねん。
別に接待というわけではないので、数万円の高級な手土産が必要ではない。高級すぎても先方に変な下心があるように思われかねないし。かといって、安物を持っていってケチケチしているように思われたくもない。それなりに気を遣わないといけないだろう。
さて、いつもはどうしているかというと、あまり気を遣わずに「ご挨拶です~」「ほんのお礼です~」くらいの感じで、よく持っていくのが千疋屋の焼菓子だ。フルーツ盛り合わせならドヤ感が強いだろうが、クッキーであれば嫌味もないし、全てにおいてちょうどよい気がする。
京都へ帰省するときに家族に買って帰るので定番はニューヨークパーフェクトチーズだが、これではさすがに手土産という感じがあまりしない。
どちらも東京駅で買えるのだが、そういったことを調べる人は調べるかもしれない。そうすると、「あぁ、そうやって近場で済ますのね」と思われてしまうかもしれない。
とにかくこの手土産選びというやつは、センスが問われる問題だ。
そもそも、和なものが良いのか、洋なものが良いのか、ホンモノが良いのか、少し崩した気の利いた感じのものが良いのか……正直、京都の老舗に対しては東京で売っているあらゆるものが、無に帰してしまうのではないか、とさえ思えてくる。
自分一人ではドツボにはまりそうだったので、やはりその道のプロに聞いたほうが早い!と思い至って、別の役員の秘書に聞いてみたところ「会社近くで買いに行くなら、エシレ・バターのクッキーなんか良いんじゃないですか?」とオススメしてもらった。
この「エシレ」という響きはどこかで聞いたことがあるような気がするが、出店当時はもちろん今でも時間帯によっては行列ができるお店らしい。調べると梅田や名古屋にもお店が出ているらしいが、丸の内のビルの店舗には、梅田や名古屋には売っていない商品もある。
ただし、クッキー1缶で3,240円、2缶セットで6,480円と、かなりいいお値段だ。「ホンモノであればこれくらい高いのは当然ですよ」という天使の声と「違いの分からん素人に高級品と思わせるためだけの値段設定やろ」という悪魔の声が聞こえてきて、またドツボにはまりそうだ。しかし、ここはクッキー2缶セットを買うことにした。(1缶にするか、2缶にするかでもさんざん悩んだがそのクダリは省略する)
お店に着くと、店内はバターの香りで満ちていて、幸せな感じがした。甘いというのかコクがあるというの、バターの香りには魔力があるような気がする。数人のお客さんが並んでいる程度でそれほど待ち時間もなかったし、店員さんの接客も丁寧で、すこぶる気持ちがよかった。手土産のクッキーだけを買うつもりだったのだが、あんまりに良い匂いにつられて、自分でも味を確かめてみようと自分用にフィナンシェ(324円)を買った。
お店から出て、青い紙袋を片手に会社へ向かって歩き出すと不思議と今まで悩んでいた気持ちが晴れてきた。なんだかんだ、自分は人にあげるものを選ぶときにいろいろ想いを巡らせるのが好きなものかも知れないな、と思った。
ビジネス上の手土産でも、大切な人へのプレゼントでも、あげるものを買ったり作ったり、そこにはストーリーがある。今回のように直接見えない相手のためのもの選びでさえ、こんなに冗長なストーリーがあるのだから、自分もものをもらう時にはストーリーに思いを馳せることのできる人になろうと思う。
ちなみに、今になって思うと「良い買い物をしたな」と心晴れやかに丸の内の街を闊歩したのは自己満足でしかないのだけど、次の日の朝に食べたフィナンシェはとにかく美味かったし、上司は特に滞りなく挨拶ができたみたいだし、上々だったんじゃないかな。今度はエシレのクロワッサンを買いに行こう。