型月円卓好きに贈る『アーサー王物語』のススメ(237):円卓の崩壊~ラーンスロット卿、ログリスを去る~
前回までのあらすじ:ラーンスロット卿の株の下がりっぷりが激しい。
ラーンスロット卿、ログリスを去る(第17~18章)
ラーンスロット卿はため息をつき、涙を流して言った。
ラーンスロット卿「ああ、なんと悲しいことだろうか。もっとも気高いキリスト教国よ、これまでそなたをどの国よりも、わたしは愛してきた。
わたしの名誉のほとんどはこの国で得たのだが、いまこの国を去ることになってしまった。この国に来て不当であり、正当な理由でなく、そこから追放されるなんて、 まったく残念だ。
今この国に来たことを、本当に残念に思っている。だが運命の輪はさまざまに回り、たえず動いているものだ。
このことはトロイのヘクターや偉大な征服者のアレキサンダーや、そのほか多くの英雄たちの古い物語でも明らかだ。
それらの英雄たちは、もっとも華やかな絶頂に上りつめたと思ったとき、急にどん底に落ちている。わたしも彼らと同じ運命にあるようだ。この王国で、わたしは名誉を得た。
そしてわたしとわが一族の者たちによって、円卓の騎士はこれまで、よりいっそうの名誉を高めた。だからガーウェイン卿よ、わたしはここにおられる騎士たちと同じように、自分の国で暮らします。
だがもしもわがもっとも畏敬する王が、ガーウェイン卿と一緒に攻めてくるなら、力を尽くして応戦せねばならないでしょう。
だがガーウェイン卿よ、お願いしておきますが、そういうとき、わたしを裏切り者だとか、不逞の輩とかと、お呼びにならないでください。もしそうなったなら、わたしは受けて立たねばなりませんので」
ガーウェイン卿「最善を尽くすんだな。そのためにも、急いでここを立ち去るんだ。そうすればわれわれもすぐ、そなたの後を追い、そなたの堅固な城とやらを破壊してやろう、そなたの頭の上でな」
ラーンスロット卿「それにはおよびませんね。わたしがあなたのように傲慢なら、戦場の真ん中ででも対戦するでしょう」
ガーウェイン卿「もうそれ以上の言葉など結構だ。王妃を引き渡すのが終わったら、さっさとこの宮廷から出て行くんだな」
ラーンスロット卿「なるほど。ここに来る前からそうした無味乾燥な対応がわかっていたなら、来る前に考え直したでしょうね。
それに王妃が、あなたがそんな大声で言うほど、わたしにとってそんな特別なお方だったなら、どんな人にも、もっとも優れた騎士の仲間にも決して渡さず、わたしがお守りしたでしょう」
(ラーンスロット卿、声を張り上げる)
ラーンスロット卿「王妃よ、もうこれであなたさまとこれらの優れたお仲間とも、永遠にお別れです。ですからわたしのために、どうか祈ってください。わたしもあなたのために祈りましょう。
ですが もしも、あなたが何か誤った申し立てなどで困ったときには、王妃よ、すぐにわたしにお知らせください。この世の騎士の戦いで救えるものなら、わたしがお救いいたしますので」
(ラーンスロット卿、皆の前で公然と王妃に口づけ)
ラーンスロット卿「さあ、皆の中でいったい誰が、わが王妃がわがアーサー王に対し、誠実でないなどと言うのか見ようではないか。そう言う勇気のある者がいるなら、いったい誰なのか見せてもらおうではないか」
こう言って、グィネヴィア王妃をアーサー王のところに連れていき、ラーンスロット卿は別れを告げてその場を立ち去った。
皆が気が狂ったように悲しんだが、ガーウェイン卿はそうではなかった。
ラーンスロット卿は周囲の嘆きを受けながら『喜びの城』に帰ったため、名を変えて『嘆きの城』となった。
こうしてラーンスロット卿は、永久にアーサー王の宮廷から去った。
ラーンスロット卿は城に着いてすぐに仲間を呼び集め、どうしたいのか訪ねた。
仲間たちは「あなたがなさりたいようにいたしましょう」と答える。
ラーンスロット卿「それでは諸公よ。わたしはこの素晴らしい領地を去らなければならないのです。立ち去ろうとする今、わたしは悲しみでいっぱいです。それは不名誉な去り方だからです。
実のところ追放される者が面目をつぶすことなく、その領地を去ることなどないから、つらいのです。
わたし亡きあと、人々はわたしがこの領地を追放されたと記録するのでしょう。わたしが恥を恐れないなら、きっとわたしはグィネヴィア王妃とは、別れなかったでしょうね」
騎士たち「殿よ、もしあなたがこの国にとどまると言われるのなら、われわれも残りましょう。
あるいはこの国にとどまりたくないと言われるのならば、ここにいる立派な騎士たちはあなたさまとともに行動いたしましょう。
それにはいろいろな理由がございます。一つには、あなたさまの血縁の者は、あそこの宮廷では歓迎されないでしょうからね。
この国で困られているあなたさまにお味方するのが嬉しかったわけですから、他の国にお供して行き、そこであなたさまがするのと同じことをするのもまた、同じように嬉しいことです」
ラーンスロット卿「わたしの素晴らしい方々よ、わかりました。感謝いたします。ではよろしいですか、わたしは生まれてからずっと持っていた財産を、このように分けようと思っています。
つまりわたしの全財産と全領土との間で自由に分けようというのです。わたしの物などは、皆の間でもっとも少なくていいのです。わたしは身の回りの物さえあれば充分なのです。
ほかの財宝とか衣装などはいりません。そしてみなさん方はわたしの領地で、そのままの身分を維持していけると思います」
騎士たち「あなたさまを見捨てる者は、恥を知るでしょう。われわれにはよくわかります。円卓の友情が請われてしまったいま、この国に平和などはなく、あるのはただ争いと戦いだけです。
アーサー王は円卓の気高い友情で支えられてきて、王とその国ぜんぶはその高貴な行いのために、平穏で安全だったのです。そして大部分はラーンスロット卿、あなたさまの気高さのおかげだったのです」
ラーンスロット卿「まったくのところ、そのように言ってくれてありがとう。だがこの国が安全だったのは、なにもわたしの力だけでないことは、よくわかっていますが、だができるだけわたしもそうなるように努めてきました。
そして確かにわが生において、わたしとわが一族は、多くの謀反を勧めてきました。謀反といえば、やがては皆の耳にも入ることと思いますが。
ほんとうに残念なことであり、ずっと心配していたことですが、モードレッド卿が、きっと紛争を起こすでしょうね。彼は妬み深いし、なにかもめごとを企んでいるようなのです」
こうして彼らはラーンスロット卿の国、フランスに出発した。
そして自らの領地を騎士たちに分け与えたのだった。
<ツッコミ>
なんでこんなに被害者面ができるの……?
もしかしてラーンスロット卿は本当に不倫をしてないのか???
もはやそう思えてくるレベルの開き直りっぷりだ。
マジで引く。
では、また次回。