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20010922 壁土を喰う

 壁土を喰う病気というか症状を知ったのは石切神社の参道$${^{*1}}$$に並ぶ古い漢方薬局の陳列棚に描かれた絵からであった。石切神社$${^{*2}}$$は生駒山$${^{*3}}$$の麓にある神社で、病気治療に御利益があるらしい。

 ずいぶんと昔に行った切りなので、どこの薬局にその絵があったのか全然憶えていないのだが、こんな感じの薬局の陳列棚$${^{*4}}$$にその壁土を喰う子供の姿が描かれていた。

 十二指腸虫$${^{*5}}$$が寄生すると壁土を喰うようになるらしい。最近は壁土を使って建てられる家が少なくなってきたので、寄生虫自体に寄生されることが少なくなったのも伴って、「壁土を喰う$${^{*6}}$$」という症状は相当珍しくなっているのではないかと思われる。

 何故、壁土を食べるのか。壁土には強度を出すために藁を細かく切って入れる。この藁を食べるために壁土も一緒に食べているのだろうか。どうも十二指腸虫が寄生すると異味症$${^{*7}}$$となり、壁土や白墨が喰いたくなる$${^{*8}}$$らしい。太古の昔からこの寄生虫は人間に寄生してきたのだろうから、家に壁土や白墨のない時代は一体何を食べていたのだろうか。そこら辺の土を食べていたのか。壁土や白墨を食べるというのは自分の身の回りにある手に取ることが出来るものを食べてしまうのであろう。壁土に何か特別な成分が含まれているからではなく、亀が石を食べる$${^{*9}}$$のと同様に特に壁土や白墨である必要はない。

 上方落語$${^{*10}}$$に壁土を喰うことを題材にした噺があるようだ。「瘤弁慶$${^{*11}}$$」という噺である。近江国大津の宿で壁土を食べた男の右肩に弁慶の人面瘡が出来る。人面瘡の弁慶は、壁に塗り込められていた大津絵の弁慶$${^{*12}}$$であった。

 壁土はどこにでもあるのに何故舞台が大津の宿でなければならないか。一つは和風建築工法の「大津壁$${^{*13}}$$」とのつながり、もう一つには弁慶が描かれた「大津絵$${^{*14}}$$」とのつながりである。これにより「壁土を喰う」と「弁慶」とが「大津」によって素直に結びつく。

 噺のさげは次の通りである。夕方、蛸薬師$${^{*15}}$$に人面瘡を治して貰いに行く途中、大名行列$${^{*16}}$$に出くわす。頭を下げない人面瘡弁慶と行列の武士とが喧嘩をする。怒った武士は手打ちにすると言い出すので、男は「夜分の事ですから、御勘弁を」と言うと武士は「夜の瘤は見逃しならん」。

 何が「さげ」になるのかさっぱり解らなかった。「夜の瘤」→「夜の昆布$${^{*17}}$$(こぶ)」→「よるこぶ」→「よろこぶ」で夕飯の昆布は縁起がいいので見逃すな、ということらしい。難しすぎる。

*1 ミステリーゾーン・石切
*2 石切神社
*3 奈良県の北西部に位置する標高642mの生駒山
*4 健康のアミューズメントパーク石切神社
*5 こんなに怖い寄生虫
*6 かべ土などをかじる。
*7 あなたの味覚は大丈夫?
*8 蛔虫症(Ascariasis,round worm infection)
*9 石を食べる亀
*10 落語検索エンジン「ご隠居」
*11 【上方落語メモ第1集】その37 / こぶ弁慶
*12 大津絵の店_武者絵
*13 便利ツール[国語辞典]:大津壁
*14 大津絵の店_大津絵とは
*15 蛸薬師堂 永福寺|新京極商店街振興組合公式ウェブサイト
*16 東海道五十三次をゆく(関連知識・大名行列)
*17 大阪昆布昭和会

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