見出し画像

20020503 電線の工夫

 送電線に雪が付着して、その重みで電線が切れたりたるんだりする。電線は細長いので大量に雪が着くことはないような気がする。少々雪が着いてくらいでその重みによって電線が切れたりすると言うのはちょっと信じがたい。電線は金属製で雪は氷である。重さが全然違う。しかし実際には雪による被害が起こる$${^{*1}}$$ので、電線にはその対策が施してあるらしい。

 丸いままの電線だと電線に着いた雪が付着しながら電線の周りを回転し、雪だるまが転がる度に雪を着けて大きくなるように電線の周りに雪がどんどん着いていく$${^{*2}}$$。この雪の重みで電線が弛んだり切れたりしたり、付着した雪によって電線が受ける風の影響が大きくなり、電線が受ける力によって鉄塔が倒れたりすることがあるらしい。

 そこで雪の付着を防ぐために電線の周りで雪を回転させずに下に落としてしまう工夫を電線に施したり$${^{*3}}$$、一時的に電線に沢山の電流を流して電線自体を発熱させて雪を溶かすということがなされている。

 その中でも私が秀逸と思うのは、電線に針金のような物を巻き付ける方法$${^{*4}}$$である。この方法が雪の付着防止対策の費用の点から最も効果的かどうかは別として考え方が素晴らしい。

 電線に電流を流すと電線の周りに磁界が発生する。送電線に流れている電気は、常に電流の向きが変化する交流$${^{*5}}$$と呼ばれるものなので磁界の強さや向きもそれにつられて変化する。磁界が変化するとその磁界の中にある電気を通す物に電流が流れ出す$${^{*6}}$$。電気を通す物が鉄など磁石にくっつくようなものだとそれ自体が磁石にもなる。電線に捲かれた針金にも電流が流れたり、針金が磁石にくっつく材料で作られていれば磁石になったりする。

 電気が流れれば必ず熱が発生する。磁界によって磁石になるだけでは熱は余り発生しないが、その磁界の強さや向きが頻繁に変化すると、それによって磁石になる方も忙しく磁石の強さや磁極の向きを変えるので熱がだんだん溜まってくる$${^{*7}}$$。針金が捲いてなくても捲いてあっても電線からは磁界が出ているので、それを利用しているのである。

 この熱を利用して電線の周りの雪を融かすのである。秀逸なのはここからである。磁石になる性質は周りの温度に左右される。どんなものでも温度が高いと磁石になりにくくなる$${^{*8}}$$。つまり夏になると磁石になりにくく、冬になると磁石になりやすい。温度によって磁石になり易さが極端に変化する針金$${^{*9}}$$を電線に巻き付ければ、冬だけ熱が発生して雪が着かなくなる。雪に関係ない夏には熱が発生せず、冬だけ熱が発生して雪が着かないようになる。なんと合理的な仕組みだろうか。

 しかしよく考えてみると冬だけ発熱する必要があるのだろうか。夏も同じように発熱しても全く問題はない。わざわざ夏だけ発熱しない特殊な材料の針金を使うのは費用がかさむ原因になる。これでは非合理極まりない。

 電線の周りに発生する磁界は、その周りに何があっても関係がないような気がするがそうではないようである。電線に流れる電流で発生した磁界によって周りの物に熱が発生すれば、電線から周りの物へエネルギーが流れて行ったことになる。電線から一部の電力が針金に移動していることになる。つまり夏冬関係なく周りで発熱すれば雪の降らない夏に電力を無駄に消費していることになる訳である。

 こう考えるとやはりよく考えられた仕組みだ。だが、不思議な感じは拭いきれない。直接電線に触れていないにもかかわらず電力が移動しているというのである。ラジオやテレビ$${^{*10}}$$の放送局のアンテナから出ている電波も本質的には同じ筈である。放送局のアンテナ線に電流が流れて磁界が発生して周りにあるラジオやテレビジョンの受信機のアンテナに電流が発生するので音を聞いたり絵を見たりすることが出来るのである。電線に捲かれた針金の有無と同じように、厳密に言えば受信するラジオやテレビジョン受像器の数によって放送局が消費する電力が変わってくることになる。本当にそうなのだろうか。受信する側のアンテナに流れる電流は熱など全く発生しないと言っていい程の極微量なので移動する電力は完全に無視して考えているだろう。

*1 首都圏で7年ぶりの大雪となった1月14日、電力供給の雪の影響に関するお問い合わせを約700件いただきました。
*2 送電線の雪害対策をはなしてください。またギャロッピング現象についての対策はどのようにされているのですか。
*3 雪害から送電線を守る 難着雪電線/着雪防止用付属品
*4 フジクラ技報 第100号 送 電 線 事 業 部
*5 20020103 電源周波数
*6 第10講 電磁誘導
*7 ヒステリシス曲線を考える
*8 磁石とローソクでつくるエンジン
*9 特許番号 第2822104号
*10 20001022 ラジオとテレビ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?