20050628 ヒンデンブルク号の事故
飛行船が空中で炎上している古い映像$${^{*1}}$$がある。このヒンデンブルク号の事故は1937年アメリカで起こった$${^{*2}}$$。当時は水素ガスが原因ということで、この事故を契機に水素ガスを用いた飛行船は姿を消したという。
ところが後の人がこの事故を調べてみる$${^{*3}}$$と炎上の原因は水素ではないという結論$${^{*4}}$$に達したらしい。燃えたのは飛行船の機体に使われていた塗料が原因ではないかというのだ。塗料には酸化鉄とアルミニウムとが含まれており、これが燃え出したのではないかと推測しているようだ。
なぜ燃え出したのか。雷雲の中を飛んできたため機体が帯電し、飛行場の繋留塔$${^{*5}}$$につないだ途端に飛行船に溜まった電気が放電して塗料に引火したという。この時、飛行船に充填されていた水素はどうなったのか。当然いっしょに燃えていたのだろう。
この事故で飛行船のガスには水素が使われなくなり、代わりに不燃性の気体であるヘリウム$${^{*6}}$$が一般的になった。ヘリウムガスは水素ガスよりもほんの少し重いが、浮揚力は殆ど同じ$${^{*7}}$$である。本当にヒンデンブルク号の事故の原因が塗料だとすると中に入っている気体が水素だろうとヘリウムだろうと関係がないが、中に入っているガスは燃やすためではないから燃えやすい物を使うよりは燃えない物を使った方がいい。これ以来、空気中で浮揚力を利用する場合は「ヘリウム」と相場が決まった。
水素は燃えやすいので燃料として使える。燃えやすいので当然危険である。他の燃料と同じように慎重に取り扱わないと危ない。ところが水素の危険性に関しては他の燃料に比べてかなり敏感に反応する人が多くいる。それを水素が燃料として普及させる障害と考えている団体がある。人々が水素を恐ろしいと感じているのはヒンデンブルクの所為だと考えているのである。
そこでこの「原因は水素ではない」という研究を、人々の水素に対する過剰な反応を和らげるのに利用$${^{*8}}$$している。ここ$${^{*9}}$$でも使われている。
水素は燃料になるので危険な物$${^{*10}}$$に決まっている。ヒンデンブルク号の事故の原因とは関係ない。物事を説明するのに関係のない事柄を持ち込むのは信頼をなくす。またそのような説明を受ける時、何が本質なのかを見極める能力が要る。常に勉強は必要だ。
*1 zeppelinmus_hindenburg_inferno.jpg
*2 Gallery :: Famous Videos hindenburg.mpg
*3 Hydrogen Newsletter Spring 1997: Hindenburg
*4 The "Hindenburg" Accident ※「水素が原因ではなかった」というのは水素擁護派の意見であるとする見方もある。
*5 Vickers Airship Catalogue Art Index vick_08a.gif
*6 20020825 ヘリウムの発見
*7 ヘリウムとは - コトバンク
*8 JHFC
*9 Image of Hindenburg Haunts Hydrogen Technology - The New York Times
*10 20050321 車内への危険物持ち込み