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20011019 魔鏡

 パソコンや電化製品等に入っているシリコンチップには非常に細かい電子回路が組み込まれている。どのくらい細かいかというと髪の毛の直径が50ミクロン$${^{*1}}$$(ミクロンはmmの1000分の1)程度に対して、シリコンチップ上に形成されたトランジスタのゲートと呼ばれる部分$${^{*2}}$$の長さが0.1ミクロン$${^{*3}}$$しかないのである。

 こんな細かい図形をどうやって作るかというと写真製版を応用$${^{*4}}$$している。LSIのチップ$${^{*5}}$$の大きさ数ミリから大きいものでも十数ミリ角の大きさである。このチップは大きなシリコンウェハ$${^{*6}}$$に同じものを沢山一度に作っておいて$${^{*7}}$$最後に精密な丸ノコギリ$${^{*8}}$$で切って作る。

 そのシリコンウェハに紫外線などの光が当たると現像液で溶けやすくなったり$${^{*9}}$$または逆に溶けにくくなったりする$${^{*10}}$$感光剤を塗る。塗って乾かした後、あらかじめ転写する図形が絵が描かれているガラス板に紫外線などを通して日光写真$${^{*11}}$$のようにシリコンウェハ上に塗られた感光剤を感光させる。レンズを使ってガラス板に描かれた図形を縮小して転写$${^{*12}}$$する方法もある。

 転写する図形の最小寸法が0.1ミクロン程度なので転写されるシリコンウェハが少しでも凸凹していては思ったような図形がちゃんと転写できない。従ってシリコンウェハの表面は究極の鏡のように仕上げてある。ほんのわずかな凸凹でもあればシリコンチップが動作しなくなる可能性が出てくる。尖った凸凹ならば見つけやすいかも知れないが、ゴルフボールのディンプル$${^{*13}}$$のような凸凹は非常に判りにくい。

 そこで魔鏡を用いてこの凸凹を検出する技術がある。魔鏡$${^{*14}}$$とは銅鏡の一種で、鏡面に光を当てて反射した光を白い壁などに投影すると鏡の裏に描かれた図形が映し出されるもののことである。これは光によって裏の模様が透過して映し出されるのではない。製造過程において裏面の模様を作ってから表て面の鏡を作るため、表て面を磨いていくうちに裏面の模様の凸凹に影響して表て面がほんの少しの凸凹が生じてしまう。鏡の面に大きな凸凹が出来てしまうと鏡としての機能がなくなってしまうが、凸凹が非常に小さいので顔を写したぐらいでは殆どその像のゆがみが判らないが、強い光を当ててやると反射光の明暗が強調されて隠された模様が判るようになる。

 このわずかな凸凹でも見える魔鏡の原理を利用$${^{*15}}$$してシリコンウェハのわずかな凸凹を検出する方法がある。

 最先端技術用語は外来語に押され気味だが、「魔鏡」のようにおどろおどろしい日本語が入り込んでいるのは何となく面白い。多分、魔鏡を英語にしようとしてmagic mirror$${^{*16}}$$しか思い浮かばなかったためMakyo$${^{*17}}$$と日本語のままにしたのだろう。

*1 超 微 細 ・超 高 速LSIの 材 料 戦 略
*2 LSIの世界 MOS型ICの種類
*3 ノッチ構造の金属ゲートを用いたサブ0.1μm MOSトランジスタを開発
*4 1. 半導体製造工程 :半導体の部屋:日立ハイテク
*5 低電力・高速センサネットワーク向け無線通信LSIを開発(2008年 2月 7日): プレスリリース | NEC
*6 20000428 CZ
*7 Applied Materials Japan Inc. ウェーハのダイシング
*8 ダイシングソー・カッティングソー
*9 微細加工用ポジ型ホトレジストの感光材
*10 1-2.工程紹介~フォトリソ編~/清川メッキ工業株式会社/めっき(メッキ)技術,めっき加工
*11 日光写真
*12 ニコン Technology Now「ニコンと超LSI」
*13 何でボールの表面には"凸凹"があるの?
*14 魔鏡
*15 魔鏡システム | 製品情報 | コベルコ科研LEO
*16 Magic Mirror - Escher in Het Paleis
*17 Makyo system product line-up

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