20000526 巨大装置
昨日の続き$${^{*1}}$$。ある巨大な装置$${^{*2}}$$とは何か。LIGAプロセスの最初の「リソグラフィー」に用いる光を発する装置である。リソグラフィー$${^{*3}}$$とは、例えば歯車の図形が描かれたネガフィルムに光を当てて印画紙に歯車の図形を転写する、という操作のことである。LIGAでは印画紙$${^{*4}}$$の代わりに樹脂の膜を感光させる。その樹脂$${^{*5}}$$の膜の厚さは光に反応する印画紙の膜の厚さ$${^{*6}}$$よりも遥かに厚く0.1mm以上あるので、非常に強力な光が必要である。また緻密な図形を転写するためには光の波長を短くしなければならない。その様な波長の短い光とはX線や紫外線$${^{*7}}$$である。波長が長いと大雑把な図形しか転写できない。
強力なX線や紫外線を発生させる装置はシンクロトロン放射光施設$${^{*8}}$$である。電子をほぼ光の速度まで加速し、その軌道を強力な磁石$${^{*9}}$$で曲げてやると電磁波(光)を放出する。これをシンクロトロン放射光$${^{*10}}$$という。波長の短い光を出すためには電子の速度をどんどん光の速度に近づけなければならない。
そのため電子に非常に高い電圧を掛けて速度を上げる。電子を加速するには空気などの分子があるとそれらが邪魔になるので電子の通り道は真空にしなければならない。その通り道は大規模な施設になると1.3km$${^{*11}}$$にもなる。そうなると真空ポンプが沢山いる。高電圧を発生させる電源が要る。光の速度に近い電子の軌道を曲げるためのこれまた超強力な電磁石が要る。X線が出るので人体に危険なので分厚いコンクリートの壁で囲わなければならない。これらを全部揃えようとすると2階建てぐらいのビル$${^{*12}}$$が必要となってくる。超小型といわれるシンクロトロン放射光施設$${^{*13}}$$でもやはり大きい。
人間の体の中に入れようとする機械$${^{*14}}$$を作るために巨大な装置が必要というのは何とも皮肉なことである。しかしこの隔たりが科学者の心を捉えて離さないのかもしれない。
*1 20000525 微小な部品
*2 放射光研究施設
*3 ニコン Technology Now「ニコンと超LSI」
*4 モノクロ印画紙
*5 高分子の表示:PMMA
*6 図1 X線フィルムの構造(直接撮影用)
*7 1.光とX線
*8 UVSORとは
*9 主加速器-1:シンクロトロン加速
*10 夢の光「シンクロトロン放射光」
*11 大型放射光施設 蓄積リング棟
*12 ニュースバル実験棟3次元図
*13 立命館大学SRセンター
*14 知的生産、医療福祉ロボットの研究開発