20090920 カノン(3)
「音」という漢字は「のん」とは読まない。観音(かんのん)、陰陽(おんみょう)、天皇(てんのう)、因縁(いんねん)などの「音」「陽」「皇」「縁」は通常は「おん」「よう」「おう」「えん」と読んで、単独では決して「のん」「みょう」「のう」「ねん」とは読まないのだ。そう読むのは熟語を形成した時にその直前の漢字の読みが「ん」で終わっているので、それと次ぎに来る先頭の母音とが合成されてナ行音またはマ行音に変化しただけで、これは本来の読みではない。陰陽の場合、「陰」が「おん」ではなく「おむ」と読まれたから「おんみょう」となっているのだろう。決して「陽」を「みょう」と読むからではない。
このことは以前にも話題にしている$${^{*1}}$$。つい最近、web上で「音」を「のん」と読む事例を大量に見かけた$${^{*2}}$$ので、再度採り上げた。何故こんな勘違いをしている人が沢山いるのだろうか。事もあろうに自分の子供の名前にこの「勘違い$${^{*3}}$$」を採用する人がいるらしい。幸い私の親類縁者にはそのような粗忽者はいないのでここで言えるのだが、付けられた子供はいい迷惑である。ほんの数分かけて漢和辞典を調べれば勘違いと判るのに、それを親が怠ったために一生「勘違い」の名前を背負って生きなければならないだろう。ただ、そのような子は親の勘違いによって他人に名前を覚えてもらうきっかけを作って貰ったと考えればいいかもしれない。
「音」を「のん」と読めると思っている人は、観音を「かんのん」と読むから、そう読むと思っているに違いない。こういう人は「大和(やまと)」を「大(やま)和(と)」とか「大(や)和(まと)」とでも思っているのだろうか。そういう人は「香具師(やし)」「七五三(しめ)縄(なわ)」などはどう考えるのだろう。まぁ、そういったうかつな人はこれらの熟語はそもそも読めない可能性が高い。
鍛冶(かじ)$${^{*4}}$$などは難しい。「鍛(か)冶(じ)」と考えてしまうかもしれないからだ。特に「冶(や)」は「治(じ)」に字の形が似ているので「冶」も「じ」と読むと勝手に思い込んでしまう$${^{*5}}$$のだろう。「冶」は「や」としか読めない$${^{*6}}$$。なのにジグ(治具)のことを「冶具」と書いてみたりする人が後を絶たない。以上の例は鍛冶(かじ)も含めて全て熟字訓$${^{*7}}$$なので、熟語全体で訓読みする。従って訓みは漢字毎に分かれない。
観音でも熟字訓でも、仕組みや読み方を知らないのは仕方がない。ある程度は学校で習う筈なので、知らないと言うのは少し情けないが、自分勝手に考えているならそれが勘違いかどうか位は調べてみてもいいのではないか。調べ方も分からないのであれば、これまたどうしようもないが、少なくとも自分の子供を名付ける時ぐらい、その漢字の意味ぐらいを調べてもいいだろう。調べれば「音」に「のん」という読みがないことに気付く筈だ。名前の画数など全く意味のない占い$${^{*8}}$$ばかりに気を取られているのは愚の骨頂である。
因みに「のん」と読める漢字は「暖」しかない。この読みは「暖簾(のれん)」「暖気(のんき)」で出てくる。
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*4 20040810 鍛冶橋
*5 20090629 百姓読み
*6 20030319 治具
*7 20000413 四字熟語
*8 20010322 姓名判断
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