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20040815 人名漢字
法務大臣$${^{*1}}$$の諮問機関、法制審議会$${^{*2}}$$人名用漢字部会から新しく追加される人名漢字が発表されていた。人名漢字$${^{*3}}$$とは常用漢字表にある漢字以外で人名として使える漢字を指す。戸籍法で人名に用いることが出来る文字は「常用平易な文字」と定められている$${^{*4}}$$。常用平易な文字は平仮名、片仮名それに常用漢字である。常用漢字以外で庶民が人名として使いたいと思われる漢字を集めてできた表が人名漢字表$${^{*5}}$$である。
人名漢字表というと、名前はその表の漢字から選ばないといけないような感じがするが、戸籍に登録できる漢字は常用漢字と人名漢字とである。
今回追加されるのは、人名としてもう少し使える漢字を増やして欲しいという庶民の要望からだろう。人名漢字を増やすなど取るに足らないことは後回しにして、経済、環境、世界平和など人類の将来に大きく関わるような事柄にもっと力を入れて欲しい。
今回書きたかったことはそんなことではない。追加された漢字の他に「削除が決まった漢字」というのがあることに驚いた。人名に使う漢字は常用漢字表と人名漢字表とから自由に選択する訳だから、新たに漢字を追加するのは理解できる。しかし表から削除するというのは一体どういうことか。どういう意味があるのか。使いたくなければ使わなければ済む話ではないか。
人名部会は新しい人名漢字表について一般庶民からの意見を募った$${^{*6}}$$。その結果、削除すべき漢字というのが出てきた$${^{*7}}$$らしい。例えば「糞」「屍」「呪」という漢字は人名に相応しくないので削除すべきだと言うのだ。子供の社会的不利益や無意味な社会的混乱をもたらす、縁起が悪い・不潔・卑猥・否定的・非常識な漢字及び公序良俗に反する漢字は排除すべきである、常識,良識のない親にゆだねるのは問題である、と言う意見もあったようだ。
過去に自分の子供に「悪魔」という名前を付けようとして役所に却下され問題になった事件があった$${^{*8}}$$。こういったことに鑑みての意見でもあるだろう。
一部の人にとって人名に相応しくないと考えられる漢字を排除するというのは全くの的外れの意見である。「悪」も「魔」も常用漢字なので「人名に相応しくない漢字を排除する」ことは不可能なのだ。人名漢字表から排除しても上記の問題は一切解決されない。漢字が増えればそういった問題が発生する可能性が増えると言う考え方があるかもしれない。しかし、そもそも自分の子供に「屍」「呪」といった字を使うのは常軌を逸しているのである。人名漢字にあるからと言ってそんな字を使おうとする人が今までよりも増えるとは考えられない。
一方、古くは魔除けのために名前に「糞」とか「鬼」という文字を入れる場合があった。南方熊楠$${^{*9}}$$の「楠」は「くそ」が変化したものという説を聞いたことがあるが、これはあまり根拠がないらしい。極端に言えば、こういった親心が上述のような意見により一部制限されることになる。
名前は赤ん坊ばかりに付ける訳ではない。改名は可能$${^{*10}}$$なのである。自己の責任で相応しくないと考えられる漢字を用いる場合もあるはずだ。そういった自由も上述の意見で制限された。
人名漢字から相応しくない漢字を抽出するという全く意味のない作業のために時間と労力、つまり税金が余分に使われたのである。よっぽどこちらの方が問題である。
*1 法務省
*2 法制審議会
*3 漢字基本用語集
*4 戸籍法
*5 漢字表一覧
*6 人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に関する意見募集
*7 人名用漢字の範囲の見直し(拡大)についての意見募集結果について
*8 予防法務ジャーナル「そよ風」▲子の命名と法的制限▼
*9 田辺の偉人・南方熊楠(みなかたくまぐす・1867~1941)
*10 20000813 改名