見出し画像

20010615 スターボウ

 スターボウ$${^{*1}}$$は本当に見えるのだろうか。考えているうちに見えないような気がしてきたので調べてみた。

 スターボウstarbowとは虹rainbow$${^{*}2}$$の宇宙版である。宇宙では雨が降らないので、地上の虹と同じような原理で「虹」が見えるわけではない$${^{*3}}$$。宇宙船が光速度に近づくと窓から見える星々の光がドップラー効果によって虹色に変化して見えてくるのだという。救急車が自分に近づいてくるとサイレンの音が甲高く聞こえ、遠ざかると低く聞こえるのが音波のドップラー効果である。救急車がサイレンを鳴らしたまま止まっていて、自分が動いていても同じような現象が起きる。自分と救急車とが相対的に近づいていれば音は高くなり、遠ざかれば音は低くなる。光も波の一種なので音波と同じようにドップラー効果が起こる。

 音が甲高く聞こえたり低く聞こえたりするのは音の波長が短くなったり長くなったりするからである。音波を少しのばしたバネと考える$${^{*3}}$$と判りやすいかも知れない。少しのばして出来た隙間の長さを音の波長とする。サイレンの音が聞こえると言うことはバネの一方が救急車、もう片方が自分に繋がっていることである。自分が救急車に近づけばバネは縮むので隙間が小さくなる。即ち波長が短くなる。波長が短いというのは音が「高い」ということである。逆に自分が救急車から遠ざかればバネは伸びるので音が「低く」なる。

 救急車のサイレンの音を聞く代わりに赤い回転灯を自分が見ているとする。光も波なので上の音波の例と同じで、自分が救急車に近づいていけば光の波長が短く見える。光の波長が短くなると言うことは色が変わることであり、波長が短くなると言うことは虹の赤から紫へと変化することである。従って近づく速度が速くなればなる程、赤い回転灯の色は紫に見えてくる、筈である。速度が徐々に上がっていけば回転灯の色は赤から橙、黄、緑、青、藍と変化する。

 日常でもこれは起こっているのだが光の速度に対して我々の動きがあまりにも遅いので色の変化が全く判らないだけで、遙か遠くの星を細かく観測するとこのようなこと$${^{*4}}$$が起こっている。

 宇宙船の速度が光の速度に近くなれば救急車の回転灯と同じことが星の光によって起きるはずで、これが虹に見えても不思議ではない、と思っていた。

 ところがそうではない。調べてみると私と同じようにやはり虹には見えないのではないか$${^{*5}}$$と考える人がいる。そして更によく考えると星も見えなくなるのではないか、と思えてきた。

 何故、星が虹に見えないか。もともと星が光る原因は何か。星が光っているのは星が高温になっているからで、物質は温度を持つと電磁波を出す$${^{*6}}$$ことが知られている。物質の温度によって放出される電磁波の波長の分布が変化するのである。光も電磁波の一種なので光も出ている。同時に目には見えないが、電波も出ているし赤外線も紫外線もX線も出ている。

 星が白っぽく見える$${^{*7}}$$のは赤から紫までの色の光が全部混ざって眼に届くためである。星の表面温度が高くなると青い光が強くなるので青っぽく見え、温度が低いと赤く見える。これは電球のフィラメントでも同じことが起こっている。電球が暗い時はフィラメントがそれ程熱くなってないので橙色をしているが、電流を沢山流してやるとフィラメントが熱くなるので白っぽくなってくる。

 赤から紫までの色の光が全部混ざった光を出す星に向かって行ったらどうなるだろう。赤は橙色に変化し、紫は波長の短い紫外線になるだろう。星に向かって行く前は赤から紫までの色が混ざって白く見えていたのが「橙から紫」迄に合成になるので色合いが変わりそうだ。更に速度が上がれな橙は青色になり星は青く見え出しそうである。

 考えてみればもともと「赤」より波長が長い「赤外線」の波長も短くなり「赤」に見えてくるのだから、結局は混ざり具合はあまり変わらず白色のままであろう。ただ物質が温度を持つことによって放射する電磁波の波長の分布は物質の温度で決まるある波長を頂点として$${^{*8}}$$波長が長くなるに従って、その強度が小さくなってくる。つまりドップラー効果で波長が全体に短くなると青や紫の色の強度が常に高くなるので青っぽい白色になるのかも知れない。これで星が虹の色に変化しないことが判った。救急車の回転灯のように赤い光だけを出している星があれば、速度の上昇に従って色々な色$${^{*9}}$$に見えるだろう。

 次に何故、星が見えなくなるか。宇宙船が光の速度にどんどん近づくと周りの景色が進行方向に集まって見えてくる$${^{*10}}$$。例えば宇宙船の外で止まっている人から見るとある角度をなして向かってくる光は、宇宙船に乗っている自分から見るとその「ある角度」よりも進行方向に傾いた角度をなして降り注いでくる。これは丁度、しとしと降る雨の中を走りながら傘を差している時と同じである。立ち止まっている時は雨は真上から降ってくるので傘を垂直に立てているが、自分が走り出せば傘を斜め前に傾ける。雨が前斜めから降ってくるからである。これと同じことが光線でも起こる。

 宇宙船から見える景色は進行方向に集まった星$${^{*11}}$$だけが輝くものになる。宇宙船の速度が光の速度に限りなく近づけば星は一点に集まってくるだろう。すると集まった星で非常に明るくなるのだが、ドップラー効果によって今まで目で見えた光はどんどん目に見えない紫外線やX線になってしまう。次々に赤外線や電波が「赤色」に見えてくるのだが、これらは波長が長くなるとその強度が弱くなることは上で述べた。

 宇宙の星の数は有限$${^{*12}}$$なので全ての星が前面に集中して、そこから出る光の波長がどんどん短くなれば、目に見える光の強度はどんどん弱くなる。最後には肉眼では感じられなくなるぐらい弱くなってしまうだろう。

 以上からスターボウだけではなく星も見えなくなる。

*1 早すぎたPerfume!? 元祖テクノ・ポップ・アイドル、スターボーとは?
*2 20000814 虹
*3 20010112 虹の内側
*4 国立科学博物館-宇宙の質問箱-宇宙論編
*5 星の虹、幻の虹
*6 黒体輻射
*7 Environment Lighting: CIE Black Body Curve
*8 ウィーンの変位則ハWien'sハdisplacementハlaw
*9 http://www.anu.edu.au/Physics/Searle/HWdopple.jpg
*10 VISUALIZING SPECIAL RELATIVITY
*11 Appearance of stars from a relativistic spaceship
*12 宇宙はなぜ「暗い」のか?
*13 後日書いた記事「20010616 ドップラー効果」のリンクを追加

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?