20030206 Brouwerの問題
数学における直観主義$${^{*1}}$$という考え方を作ったのはBrouwer$${^{*2}}$$という人である。Brouwerは日本語ではブラウエル、ブラウアー、ブラウワーと表記される。
直観主義というのは、ある命題$${^{*3}}$$の真偽は必ず決定できると考えるのではなく、「真偽どちらか決定不能」という場合もある筈だ、という考え方であるらしい。
従って、ある命題が「真」であることを証明するのに、それが「偽」と仮定すると矛盾するからこの命題は「真」だ、というのは認めないと言うことである。「真」か「偽」か判らない状態があるから、「偽」でないなら「真」、「真」でないなら「偽」というのは通用しない、というのだ。ただし、虱潰しに調べることが可能な事はその限りではない。
この直観主義を説明するために作られた「ブラウエルの問題$${^{*4}}$$」というがある。円周率を十進数の小数に展開したとき「0123456789」と数字が並ぶところがあるか、という問いである。
Brouwerが生きている間に計算された円周率の最高桁数は100,265桁$${^{*5}}$$であった。1961年にD. ShanksとJ. WrenchとがIBM7090$${^{*6}}$$を使って8.72時間かけて計算した。Brouwerが死んだ1966年には250,000桁まで計算されていたが、円周率に「0123456789」という数列は出現しなかった。
1997年、この「0123456789」という数列が173 億 8759 万 4880 桁目に現れる$${^{*7}}$$ことが判った。1961年にShanksとWrenchとが円周率をコンピュータで計算した当時、Shanksはある人に「人類が知り得ない円周率の桁数は何桁目から」と聞かれた。彼はすぐに「10億桁目$${^{*8}}$$」と答えたらしい。
10万桁で9時間近く掛かっているので、10億桁ならばその1万倍の桁数を計算しなければならない。円周率の計算$${^{*9}}$$は「円周を直径で割る」といった作業ではないので、かけた時間に比例して計算される桁数が増えていくわけではないが、単純にそうだとしても当時のコンピュータでは9万時間以上掛かるので、事実上出来ないのと同じと考えられたのだろう。
それの更に17倍の桁数でようやく「0123456789」が出てきたのだから、Brouwerが決定不能の例として持ち出しても不思議ではなかった。とはいっても現在このBrouwerの問題の決着は付いている。「3が1兆桁連続して現れるか」ぐらいにしておけばよかったかもしれない。現在の最高記録は1兆2000億桁$${^{*10}}$$だから、そんな数列があるとしても当分出てこないかも知れない。しかし「ない」とは言い切れないのである。
※2020年現在の最高記録は、50,000,000,000,000(50兆)桁。
*1 第1章 集合論と不完全性定理
*2 Luitzen Egbertus Jan Brouwer
*3 20020202 命題
*4 Brouwer's Cambridge Lectures on Intuitionism
*5 Pi chronology - MacTutor History of Mathematics
*6 The IBM 7090
*7 πの世界記録515億3960万桁計算の概要
*8 The occurrence of the sequence 0123456789 within #tex2html_wrap_inline149 #
*9 円周率.jp - 円周率を求める公式・アルゴリズム
*10 金田・佐藤研究室ホ-ムペ-ジにようこそ!