20060902 負結晶(2)
負結晶$${^{*1}}$$の続き。負結晶とは、結晶中にできた気泡の内面に規則正しい結晶面$${^{*2}}$$が現れた状態を言う。「ふけっしょう」と読む。
ちょうど結晶を裏返したような感じ$${^{*3}}$$なのだが、「負」結晶と名付けられている。何か違和感があったが、考えてみると本来、気泡の部分には結晶が埋まっているはずなのが、あたかも小さな結晶が抜けてしまった跡、という意味ではないかと思えてきた。つまり小さな結晶を引き算した跡だから「負」結晶ではないか。
それにしても零より大きな数を「正」小さな数を「負」という漢字で表すが、これは一体どういう由来なのか。「正」は、ただしい、ちょうどという意味だし、「負」は担う、背く、負ける という意味である。正数負数という概念は紀元前の中国に既にあったようだ。「九章算術」の正負術で解説されている$${^{*4}}$$らしい。相当昔から「正」「負」の字が当てられていることになる。大きい数から小さい数を引いた数は通常の減算だから結果は「正」の数。小さい数から大きい数を引くと、その分を担うから「負」の数としたのだろう。何もない状態よりも小さいという意味は「負」にはなかったかも知れない。零の概念がないと定義できないだろう。
負結晶は結晶の引き算の結果だから「負」なのか。ところが何もない状態からの引き算ではない。大きな結晶から小さな泡の部分を引いただけの普通の引き算である。「九章算術$${^{*5}}$$」でいえばこれは「正」の数である。これは電気の正負$${^{*6}}$$とも違う。電気には中性の状態があるので、これを零として正負を考えることができる。結晶には「零」結晶と言う概念がないので、やはり「負」結晶というのは少しずれた用語だと思われる。
*1 20060901 負結晶
*2 toku9912-04.jpg
*3 20000320 球の裏返し
*4 GS-0401.pdf
*5 九章算術
*6 20030430 電気のプラスマイナス(2)