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20050329 科学的な予測方法(2)

 ある物事の存続期間を利用して、その物事が将来いつまで存続するかを予測する方法について書いた$${^{*1}}$$。私にとっては、どうも釈然としない予測方法である。

 よく似た方法がある。「デルタt論法$${^{*2}}$$」と名付けられている方法である。この名前は、この論法が掲載されている本の著者、三浦俊彦$${^{*3}}$$氏が名付けたものだろう。

 ある物事が時間To続いて現在に至っているとする。Toの単位は秒でも年でも何でもよい。この時、この物事が現在より「あと時間t以上」続く確率を求めるのである。

 ベルリンの壁が作られてから8年経過した。あと20年以上壁が存在する確率はどれだけか。前回の地震は60年前だった。あと3年間地震が起こらない確率はどれだけか。雑記草はほぼ毎日更新されて2000以上もの話題が蓄積$${^{*4}}$$された。将来に話題の数が3000を越える確率どれだけか。こんな様なことを予測するのである。

 図に書くと判りやすい。横に直線を引く。ある物事の過去の開始時刻を左端、将来の終了時刻を右端とする。現時点はこの区間のどこかになる。仮に「あと時間t丁度」で終了するとした時、区間の長さは「To+t」になる。この長さを「1」とすると、仮の現時点の位置は開始時刻の点から「To/(To+t)」となる。現時点から「あと時間t以上」で終了するとするということは、先程求めた「あと時間t丁度」で終了する時の仮の現時点の位置よりも左側にあるということになる。左側に現時点が入る確率は、まさに「To/(To+t)」に他ならない。

 ベルリンの壁$${^{*5}}$$が、1969年当時で予測すると、1989年以降に崩壊する確率は8/(8+20)=0.29で29%となる。あと3年間地震が起こらない確率は95%、雑記草が3000回を迎える確率は40%となる。

 この論法は何でも適用できそうな気がしてくる。明日、百歳の誕生日を迎える老人と今日生まれたばかりの赤ん坊との余命を考えてみる。どちらも元気である。老人は余程のことが起こらない限りおそらく明日の誕生日を迎えるだろう。一方、今日生まれたばかりの赤ん坊が百歳以上になる可能性はどうだろう。この論法で確率を計算すると老人の確率は100/(100+0.003)でほぼ100%、生まれて数時間の赤ん坊は0.001/(0.001+100)でほぼ0%となる。なるほど一般的な感覚に近い。

 上の例で別の確率を計算してみる。老人があと100年以上生きる確率はどうなるか。100/(100+100)で50%。赤ん坊が一日以上生きる確率は0.001/(0.001+0.003)で25%。かなり一般的な感覚からずれている。

 人間には寿命があるので、老人の場合そはちらの要因の方が大きくなる。この事自体は納得できるが、二百歳の人間は存在しないし、生まれたばかりの赤ん坊がこんなに簡単には死なない。何か変である。

 別の例を考える。仕掛けのある箱の中に猫が一匹入っている。通常は空気が箱の中に送られているが、ある信号を受信すると毒ガスが送られるようになっている。その毒ガスを猫が吸うと一瞬にして死んでしまう。箱の中が見えないと「シュレディンガーの猫$${^{*6}}$$」だが、この箱はいつでも中の猫の様子が分かるようになっている。受信するある信号は、岐阜県の神岡にあるカミオカンデ$${^{*7}}$$から送られてくる。そこでは陽子の崩壊観測実験が行われており、陽子が崩壊したのを観測すると信号が件の箱に送られるようになっている。

 実験を開始してから一時間が経過しているとする。猫はまだ生きている。この猫があと一時間以上生きられる確率はどれくらいか。

 デルタt論法によれば、50%となる。言うまでもなく、この予測は間違っている。確率50%というのは、例えばこの実験を百回繰り返せば、50匹ぐらいの猫が一時間以内に天国に行く$${^{*8}}$$と言うことである。そんなことは予測できない。猫が生きていたことと信号との間に関連性が全くないからである。猫の命は陽子の崩壊のみに依るので、実験開始からの猫の存命時間は全然関係ない。陽子がしょっちゅう崩壊すれば殆どの猫がすぐ死ぬし、陽子が$${10^{32}}$$年以上の寿命$${^{*9}}$$であれば猫は天寿を全うする。現実には人類はまだ陽子の崩壊を観測したことがない$${^{*10}}$$。にもかかわらず、猫の存命時間を「この実験開始後1時間猫が生きていた」という過去の事実のみを基に計算をしてしまったので変な予測になってしまった。

 以上から、何が何でも「物事の将来の継続時間は過去の継続時間に依存する」という仮定は、果たして意味があるのだろうか。

*1 20050327 科学的な予測方法
*2 MIURA Toshihiko's Space-time: 論理パラドクス第2弾
*3 Miura TOSHIHIKO's World (三浦俊彦の世界), designed by Akiyoshi MATSUSHITA.
*4 20050325 第2000話
*5 The Berlin Wall
*6 シュレーディンガーの猫 - EMANの量子力学
*7 20000709 スーパーカミオカンデ
*8 20030910 cats and dogs
*9 カミオカンデ建設
*10 陽子崩壊探索:ハイパーカミオカンデ

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