20051107 黒体と気体
温度がある物体は必ず電磁波$${^{*1}}$$や光を発する。ここで光は、電磁波の一種なのでまとめて「電磁波」とする。どんな物体にも温度があるので、物体は全て電磁波を出しているとしていい。
「黒体輻射$${^{*2}}$$」という言葉がある。「黒体」とは、見た目が黒いからそう名付けられた。黒体は電磁波を全て吸収すると仮定した物体である。光も吸収するので黒く見える。光や電磁波を全て吸収する物質はおそらくどこにもないだろうから仮想の物質である。逆に全ての光や電磁波を反射してしまう物質は鏡のように見える。この場合黒体に対して「白体」というのだろうか。全てを反射してしまうので、白体と電磁波とは相互作用が一切ない。これでは科学的な議論をする余地がない。従って特別に「白体」と名付ける必要もないような気がする。
黒体は、温度があればその温度に対応した電磁波を放出する。その放出するエネルギー量は黒体の温度のみに依存$${^{*3}}$$する。逆に電磁波を吸収すればその吸収している電磁波のエネルギー量に対応した温度を持つのである。
真に黒くない実際の物質は光を全部吸収するわけではない。一部反射したり透過しているので「黒体」とは違う振る舞いをする。
実際の物質は原子で構成されている。原子は正の電気を持った原子核と負の電気を持った電子とで構成される。一方、電磁波とは電気が作る雰囲気と磁気が作る雰囲気とが組合わさった波$${^{*4}}$$と考えられている。それぞれの雰囲気は専門用語で「電界$${^{*5}}$$」「磁界$${^{*5}}$$」と呼ばれている。原子は正負の電気が均衡を保っているが、何らかの原因でその均衡が周期的に崩れると雰囲気つまり電界が周期的に変化するので波が発生する。電界の波ができるとつられて磁界の波ができる$${^{*7}}$$。磁界の波ができるとつられて電界の波ができる。これの繰り返しが電磁波である。
例えば原子核が中心になってその周りに電子が上手く取り巻いていれば均衡が取れていることになるが、電子の取り巻き方が変化したり原子核の位置がずれたりすれば電気の分布の均衡が崩れることになる。原子が振動したり周期的に何かに衝突したりすれば原子の電気の均衡が崩れるので電磁波が発生することになる。ということは物体に熱$${^{*8}}$$があるだけでも電磁波が出る。
ところが原子の電気の均衡状態が崩れにくい場合があるらしい。水素分子や窒素、酸素分子などそれぞれ同類の二つの原子が結合してできている二原子分子$${^{*9}}$$やヘリウムやアルゴンなど一つの原子で構成される単原子分子$${^{*10}}$$は均衡が崩れにくいので数十度以下のような低い温度では電磁波を吸収しないし放出もしない$${^{*11}}$$と言う。
温度が高くなれば電子が原子核に取り巻くといった状態そのものがぐずれてしまう$${^{*12}}$$。従って電磁波が吸収されたり放出されたりする機会はいくらでもあることになる。
地球の地表付近の大気の平均温度は摂氏15度程度$${^{*13}}$$である。つまり大気からそれ相応の電磁波が出ていると考えたいところだが、大気は酸素分子と窒素分子とで殆ど構成されている。これまで述べてきたように摂氏15度程度では、これら二原子分子は熱を持っていることだけでは電磁波を出さない。同様に吸収もしない。
これが「黒体」とは違う振る舞いをする点である。
ただし大気に0.04%程度含まれる二酸化炭素$${^{*14}}$$は種類の異なる原子が結合してできた分子なので電気の分布の均衡がもともと崩れて偏っている。つまり電磁波を吸収したり放出したりすることができる。水蒸気も同様に電磁波を吸収したり放出したりする$${^{*15}}$$。どちらも電磁波の一種である赤外線を吸収したり放出したりする$${^{*16}}$$。この性質が「温室効果ガス$${^{*17}}$$」と言われる由縁である。大気中の二酸化炭素や水蒸気からは電磁波が出てくる。
気温15度の場合、湿度40%の空気には水蒸気が0.4%$${^{*18}}$$ぐらい含まれている。二酸化炭素よりは多い。とは言ってもやはり大気の主体は80%の窒素と20%の酸素$${^{*19}}$$である。気温と言えばこの二つの気体の温度と言っても差し支えないだろう。赤外線の吸収や放出はないが、温度計で測っている気温は窒素と酸素の温度である。
*1 "電磁波とは"
*2 黒体輻射
*3 Stefan-Boltzman's law
*4 展示室バーチャルミュージアム-ゾーン2 - テクノ体験ゾーン-電波ウォール
*5 電界とは? [関西電力]
*6 磁界とは? [関西電力]
*7 TDK Techno Magazine|なるほどノイズ(EMC)入門/第2回 目に見えないノイズを追跡する
*8 20050419 電子レンジと摩擦熱
*9 13.二原子分子
*10 化学小辞典
*11 2 二原子分子の振動
*12 プラズマとは?
*13 地球温暖化解説 8.なぜ地球温暖化が起きるのか
*14 気象庁 | 二酸化炭素(CO2)
*15 radio line 電波輝線放射(Radio Line Emission)
*16 温度の専門頁 赤外線について
*17 20050601 温室効果
*18 熱管理 Q&A/Sep.2002
*19 大気の組成の謎 - 地球と惑星の比較から -