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中世の城郭都市・チェスター
長い歴史を有するイギリスの中で、昔の姿を感じられる街はいくつもある。
しかし、その中でも特に中世の姿を今に色濃く残している街・チェスターを今日は取り上げたい。
チェスター(Chester)はイングランド北西部に位置する人口約9万人の都市である。
マンチェスターやリヴァプールといった有名な都市からほど近い位置にあるが、チェスターの歴史はそれらよりも古く2000年ほど前までさかのぼり、当時グレートブリテン島を支配していたローマ人によって基地が建設されたことに起源をもつ。
その際に建てられた城壁がローマ人撤退後も維持・補修されて、城郭都市としてイギリス有数の保存状態の良さで現存する街となっている。
私がチェスターを訪れた動機は、はっきりと言ってしまえば「ついで」であった。
イギリス在住中の春のBank Holiday(祝日)によってできた3連休にウェールズ北部を訪れる計画を立てた中で、ちょうど通り道に位置していたから。ただそれだけの理由で、運転の休憩も兼ねた寄り道として目的地に加えられたのであった。
ロンドン近郊・ウォーキンガムの私の家から、休憩をはさみつつ約4時間ほど車を走らせてたどり着いたチェスターの街は、イギリスのありふれた街とはどこか違って感じられる。
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それは街並みを構成する建物の違いによるものだろう。
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街には中世チューダー朝時代の代表的な木造建築であるハーフティンバーの建物が目立つ。
白壁と黒い木組みのコントラストが印象的なハーフティンバーの建物は、ほかの都市でも全く見かけないというわけではないが、これほどまでの数が現存しているのは珍しい。
特に大通りの交差点付近でハーフティンバー建築の2階部分がつながってアーケードを構成しているザ・ロウズ(チェスター・ロウズ)が、街の見所の1つである。
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建物には様々な店が軒を連ねているが、中世の景観に配慮されて溶け込んでおり、イギリスで最も美しい街並みの一つに数えられる理由がよくわかる。
そういった街並みを眺めながら歩いていると、印象的な時計にも出くわした。
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1897の数字が刻まれた煌びやかな時計台である。
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上に登れるようなのでぜひ上って近くから見たい。
が、どうやって上の道にたどり着くのかわからない。
仕方がないので街歩きを継続して道を探すことにした。
街の中心を離れ、川のほうへと歩みを進めると城へとたどり着く。
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11世紀後半に建てられたチェスター城は、現在ではさほど多くの建物は現存していないが、12世紀に建てられたとされるアグリコラ・タワーが今にその姿をとどめている。
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ところで、チェスターの街の起源がローマ人による基地にあることは先に述べた通りであるが、そもそもチェスターという名前の由来はラテン語での「軍団野営地」を意味するcastrumに由来するといわれている。
その名の通り基地・要塞として発展を遂げた街には現在でもcity wallsと呼ばれる城壁が旧市街を囲むように現存しており、そこを散歩することができる。
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城壁に沿って街を歩けば、ローマ時代の庭園の跡や、
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円形競技場の跡などが残っているのを眺めることができる。
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そんなふうに城壁を歩いていると、ようやく時計台へとたどり着くことができた。
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このイーストゲート時計台は、ヴィクトリア女王の即位60周年を記念して城壁の東門に設置された時計台である。
ここへたどり着くには城壁を歩いてこないといけないので、近そうに見えて意外と道のりは遠かった。
もしかしたらもっと近い道もあったのかもしれないが、人生回り道しながらたどり着くくらいでちょうどいい。
そして時計台の城壁から下のストリートを眺めるのも、また美しい街並みが感じられてよいのでお勧めしたい。
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もう一つ、ランドマークとして忘れてはならないのがチェスター大聖堂だ。
元は10世紀に創建された教会であったが、13-16世紀の増改築で現在の姿となったというが、その赤黒い外観が印象的だ。
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中へ入ってみると、ちょうどオーケストラが練習を行っていた。
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音出しをBGMに教会内を散策する。
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好天に恵まれたのもあるが、明るめのステンドグラスから差し込む光に照らされた教会内はとても荘厳だった。
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中には気になる像があった。
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どうやら「ノアの箱舟」で水が引いたかを確かめるためにカラスを放った逸話からくる像のようだ。
ノアが放ったカラスは、箱舟を出たり入ったりしていたそうで、それはまだ箱舟の外に停まるところがなかった、つまり水が引いていなかったからといわれるが、この像を見ていると想像以上にノアに懐いていたからなのかもしれない、という新説を唱えたくなった。
そんなチェスターのマグネットがこちら。
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城壁に飾られたイーストゲート時計台が描かれた逸品だ。
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チェスターはこの時の私の旅における主目的地ではなかった。
よってわずか3時間程度の滞在で足早に去ってしまったのだが、
「ついで、とするには惜しい」この街の魅力を感じることができた。
マンチェスターやリヴァプールといったイングランド北西部の有名どころを訪れる機会があれば、たとえ「ついで」でも、その古き良き中世のイギリスの空気感に触れてみてほしい。
そうすればきっと、なぜ「ついで、とするには惜しい」のかがお分かりいただけるだろう。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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