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ウイスキーの聖地・アイラ島(後編)
この記事はスコットランドにあるウイスキーの聖地、アイラ島への旅行記の後編です。アイラ島の基本情報および、初日に訪れたブナハーブン、カリラ両蒸留所については是非前編をご覧ください。
2日目。予報に反して窓の外は青空だった。
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これは幸先がよいぞと、朝食もそこそこに早速蒸留所に向かうことにした。
本日の行き先は島南部にある3つの蒸留所だ。
Day2-1 アードベッグ蒸留所
まずバスに乗って目指すのは、その日オープンデーであったアードベッグ蒸留所だ。
アードベッグ蒸留所は1815年に設立され、途中一時期閉鎖された時期もあるものの1997年に稼働を再開し、アイラモルトの中でも随一のスモーキーさを持つウイスキーを世に送り出している。その味は世界中の多くのアードベギャン(Ardbegan)と呼ばれる熱狂的なファンによって支持されている。
アードベッグは、ボウモアから南部のポートエレン方面に向かうバスの終点に位置する。バスを降りるとそこは蒸留所だ。
(なお、南部3蒸留所はバスでのアクセスが容易であることもあり、Day1のような移動手段を探すドタバタはなかった。そういったてんやわんや劇を楽しみにされていた方がいたら恐縮だが、そう毎日毎日あんな綱渡りをしてもいられないのだ。)
The Ultimate Destination(究極の目的地)と自分で言ってしまう、その自信や良し。
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既にアードベギャン達が列をなして開場を待ちわびている。
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何やら先頭の方で挨拶が始まったと思ったら、開場の時間になったようだ。
入り口で5ポンドの入場料を払うと、チケットとグラスがもらえる。
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25ポンドのテイスティングが気になる。早速申し込んでみることにした。
いくつかの種類があって、抽選形式になっていた。
海藻がぎっしり入った水槽の中に手を突っ込んで、貝を探すという独特な抽選方式だった。早速海藻をもぞもぞと掻き分け貝殻を探す。
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どうやら11時に海岸に行けば良さそうだ。
時間になり行ってみると、我々を待ち構える2人のスタッフがいた。
どちらがRossでどちらがNeilだったかは忘れてしまった。
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彼らがいろいろな説明をしながら、合計4種類のウイスキーを試飲させてくれた。ただただ話すだけではなく、ウイスキーの紹介も凝っている。海の中に沈めていた瓶を引っ張り上げてみたり、
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実は波打ち際に最初から隠してあったりと、次はどんな酒を呑ませてくれるのか、と楽しみにする我々を飽きさせない。
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当年の限定ウイスキーであったケルピー(Kelpie)を始めとして、計4杯のウイスキーを、解説を肴に味わう。何よりアードベッグのスモーキーさを生んだであろう海の香りを感じながらというのがまた味わい深い。
両サイドの2本は市販されていないサンプル品らしいので、もう二度と呑むことは出来ないだろう。貴重な経験だった。
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その後も蒸留所内をウロウロする。
この年の限定ウイスキーであるケルピーは、先のテイスティングツアー以外でも至るところで呑ませてくれる。巨大なボトルを持ったスタッフがそこかしこにおり、空いたグラスを見るや、まるで田舎の法事後の宴会での親戚ばりの勢いでどんどんグラスに注いでくれるのだ。
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そんなペースで呑ませてくれるので、正午を前にほぼ出来上がっていた。
幸せな酔い方だ。
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5ポンドの入場料には、魚の燻製引換券も含まれていた。そろそろ何か食べたいというところで、それをいただくことにする。
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海沿いに腰掛けてウイスキーとともに味わう、至福のひとときだ。
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よせばいいのに、更にくじ引きなどを引いてレアウイスキーをいただく。
スーパーノヴァが当たった。
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もうこの時点で、ストレートばかり8杯は呑んだだろう。十分に酔っていたが、まだまだ蒸留所巡りは続く。ケルピーを1本お買い上げし、名残惜しいがアードベッグを後に、次の蒸留所に向かったのであった。
Day2-2 ラガヴーリン蒸留所
次なる目的地はラガヴーリン蒸留所だ。行きに使ったバスの反対方面行きを待ってもよいのだが、酔い冷ましも兼ねて歩いて移動することにした。
南部の3蒸留所は1本道だ。いかに酔っ払っていても迷いようがない。
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おぼつかない足取りで田舎道を歩く。確かこの時通り雨が来たが、スコットランドにおいて通り雨程度で文句を垂れてはいけない。傘もささずに進む。
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危険だというが、危険を促すべきは我々にではなく、羊の方ではないだろうか。
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そうこうしているうち雨も上がり、ラガヴーリン蒸留所へとたどり着く。
ラガヴーリン蒸留所は1816年に創業された200年を超える歴史を持つ蒸留所である。ホワイトホースのキーモルトとしても知られ、その重厚な味わいにファンも多いウイスキーである。
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大して酔いも冷めないままたどり着いてしまった。ひとまず中にはいってみる。
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なんとなく風格を感じる入り口だ。
ラガヴーリンでも特にツアーなどには参加せず、ショップなどを簡易的に見物して、せっかくなので試飲も行った。
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もはや何を呑んだかすら曖昧であるが、たしかスタンダードラインナップの16年を呑んだ記憶がある。当時ラガヴーリンを呑んだことがなかったので、スタンダードとしては長期熟成である16年を呑んだのであろうが、今思えば、せっかくならば限定物を呑んでおけばよかった。といいつつも、この頃には既に味など殆どわからない状態だったので、どちらを呑んでも同じだったかもしれない。
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下の列にある緑の袋に入ったボトルがこの年の限定ウイスキーであった。
完全に余談だが、ラガヴーリンの獅子のようなロゴがカッコ良くてスキだ。
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Day2-3 ラフロイグ蒸留所
ラガヴーリンを後に、次の蒸留所に向かう。
天候もすっかり回復したのどかな道を歩く。
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そうしていると次なる目的地、ラフロイグ蒸留所の看板が目に入ってくる。
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またしてもうまく共有できないのでスクリーンショットで恐縮だ。
(Google Mapでスポット情報からURLを取得すると、時折全く違う場所が取得されてしまう謎の不具合がある。私が貼りたいのはラフロイグ蒸留所なのだ。銀座のリカーマウンテンではない。)
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ラフロイグ蒸留所は1815年に創業された蒸留所であり、その正露丸のような独特の香りが初めて飲むものに鮮烈な印象を残す。アイラモルトの王とも称されるその力強い味わいにハマるかハマらないか、アイラ沼にはまり込むかどうかの登竜門的存在とも言えるウイスキーである。
なおラフロイグとはゲール語で「広い湾のそばの美しい窪地」を意味する。
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そしてラフロイグ蒸留所は、チャールズ皇太子のお気に入りのウイスキーとしても知られている。直接買い付けに訪問したこともあるらしく、毎年まとめて購入をしているらしい。蒸留所には、御用達・ロイヤルワラントを示すマークが誇らしげに掲げられている。
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ここでも、ツアーなどには参加せず展示やショップを見て回るにとどまった。
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既に限界は近いが、ここまで来て呑まないという選択肢はない。
限定ウイスキーを頂いた。残念ながら味は全く記憶にない。
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この年の限定ウイスキーはこちらも2種類あったようだ。私はどちらを呑んだのだろうか。知っている人がいたら教えてほしい。
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ポートエレン へ向かう
この日向かう予定であった3つの蒸留所を制覇し、夕刻が近づいてきたこともあり、朝来た道をさらに戻って島南部の中心地であるポートエレンへと足を運ぶ。
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ここには、1983年に操業を停止してしまったポートエレン蒸留所がある。現在は蒸留所としては稼働していないものの、麦芽工場としては現役らしい。そして近年、この蒸留所の再稼働計画があるらしい。もはや幻のウイスキーと化し、現存するボトルもおいそれと呑めるような値段ではないだけに、復活が楽しみだ。
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そしてフラフラと歩いていると、意外なことにアイラ島ではワインも生産されているらしい。
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これだけストレートでウイスキーを呑んでいるのだからワインなんてチェイサーみたいなもんだろう、と中を覗いてみる。
どうやらぶどうを育てるには緯度が高すぎるため、ベリー系など他のフルーツを使ったワインを生産しているとのことで、いくつかのフルーツワインを試飲させてもらい、ミニボトルを1本購入した。
こうしてしこたま呑んで大満足でホテルへと帰っていった。
その夜、レストランで美味しそうなロブスターがあったので注文したのだが、もはや呑みすぎていて味を楽しむ余裕など無かったのであった。
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Day3 ボウモア蒸留所
最終日、午後の飛行機でアイラを発つ。
その前に満を持してボウモア蒸留所を訪問する。
ボウモア蒸留所はホテルから徒歩2分の距離。これまでのように足を心配する必要など皆無だ。
しかし、フェスティバルは昨日で終わり。日曜日の今日、蒸留所のオープンは12時と遅い。
仕方がないので、宿の人にオススメ散歩コースを聞いて、蒸留所の横を抜けて、高台から海岸線へと向かう散歩道を散策することにした。
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これがなかなか気持ちの良いコースだった。
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見れば、キャンプをしていたと思われる人たちがいた。フェスティバル中どうしても宿が確保できなかった場合、最低最悪そういう手段もあるのかもしれない。
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そして海岸線へ。3日間ずっと思ってはいたが、やはり海が抜群にきれいだ。
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ウイスキーづくりにおいて仕込み水も重要な要素だ。海に流れ込む水がきれいなのだから、さぞ良い水を使ってウイスキーが作られているのだろう。
どうしてか無性にCHAGE and ASKA の No Doubtが聴きたくなったことを思い出す。
そうしているうち、オープンの時間だ。
ビジターセンターへと向かう。
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ボウモア蒸留所は1779年に創業を開始した、現存するアイラ島の蒸留所の中で最古の歴史を持つ蒸溜所である。ラフロイグがアイラモルトの王と呼ばれるのに対し、ボウモアはアイラモルトの女王とも表現され、伝統的な製法で作られるアイラらしいピートの効いた風味に、世界中の多くのウイスキー通が酔いしれている。
なお、ラフロイグと同じく現在の蒸留所の所有者はサントリーである。
それもあってか、日本語のパンフレットも用意されていた。
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残念ながら、飛行機の時間の都合上ツアーに参加する時間はなかった。
そこで、ショップを物色してみる。
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そして、ツアーには参加できないまでも蒸留所をウロウロして、たまたま開いていたドアの間から少しだけ蒸留に使われるポッドスチルの様子などを眺めることが出来た。
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またボウモア蒸留所では、フロアモルティングと呼ばれる、床に大麦と水を敷いて麦の発芽を促すという伝統的な工程を自蒸留所内で行う数少ない蒸溜所の一つでもある。その様子も窺い知る事ができた。
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ビジターセンターの2階は展示スペースとバーになっていた。
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1890年のウイスキー。1世紀の時を経たウイスキーは一体どんな味わいを持っているのだろうか。
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せっかくなので、バーで蒸溜所でしか飲めないという限定ボトルを頂いた。
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17年熟成で、ボルドーワインの樽で熟成させたものらしい。確かに、後味にどこか重厚な赤ワインを思わせる渋みのような味わいを感じた気がした。
ラフロイグやアードベッグなどと比べると、ボウモアはスモーキーさの中に甘さを感じるように思われ、それが女王と言われる所以なのだろうか。
壁に書かれた作家イアン・バンクスの格言が染みる。
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もしボウモアを飲んで恋に落ちないのならば、あなたにとってウイスキーを呑むということは全くもって金の無駄である、という可能性について真剣に考えるべきかもしれない。
こうして、3日間に渡るウイスキーの聖地での日々は終焉し、アルコールのせいか後ろ髪をひかれる思いを感じながら、小型機で機上の人となったのであった。
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アイラ島のマグネット
アイラ島にもきっちり存在した、マグネットがこちら。
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アイラ島のマグネットにして、ウイスキー要素0という驚愕の逸品である。
おそらくこの手のマグネットはこの1種類しかない。
ボウモアにある観光案内所で購入が可能であった。
おわりに
3日に渡るウイスキーの聖地巡礼は、私にとって1年間のイギリス滞在において最も印象に残る旅になった。
(前回記事にしたコーンウォールと甲乙つけがたいのだが、No.1の決めては天候に恵まれたか否かの差だろう)
あなたがウイスキーを、ことアイラモルトを好むのであれば、是非一度は足を運んでみてほしい。
私のように一人で行き当たりばったりで楽しむも良し、ウイスキー好きの仲間とあーでもないこーでもないと言いながら楽しむも良し。
帰国した後も、アイラモルトを呑むたびに思い出される楽しい記憶が、ウイスキーを更に美味なものにしてくれるのだ。
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回はフランスの海岸沿いの街を取り上げられればと思います。
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