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サヴィニャックの魔法が生きる街・トゥルーヴィル

当時、日本への帰任が1ヶ月後に迫っていた私は、最後の旅行先をどこにするかについて考えていた。そしてジブラルタルと随分迷った結果、その昔雑誌の特集で印象に残っていた風景に惹かれ、最後の目的地をフランス・ノルマンディー地方の海辺の街に決めたのであった。
今回はそのフランス海辺の街、トゥルーヴィル・シュル・メールについて取り上げたい。

トゥルーヴィルはこんな街

トゥルーヴィル・シュル・メール(Trouville-sur-Mer)はフランス北部、ノルマンディー地方にある海辺の街である。かつては小さな漁港であったが、19世紀終わり頃からその美しい砂浜の存在が知られるところとなり、現在ではパリなどから海水浴に訪れる観光地として隣町ドーヴィルとともに名を馳せている。
また、それと並んでトゥルーヴィルという街を有名にしているのが、20世紀フランスを代表するポスター画家レイモン・サヴィニャックが晩年を過ごした街である、ということだ。

ポスター画家レイモン・サヴィニャック

レイモン・サヴィニャック(Raymond Savignac 1907-2002)はフランスの画家であり、主に広告ポスターの世界で活躍し、600点以上の作品を残している。ポップでユーモラスでありながら、伝えるべき商品の魅力を端的に表したその作風は戦後のポスターアート界に多大な影響を与えている。
日本でも、「森永ミルクチョコレート」「としまえん」などの広告ポスターでその名を知られている。

牛乳石鹸(1949)

森永ミルクチョコレート(1957)

としまえん 7つのプール(1989)

サヴィニャックはパリで生まれ育ったものの、保養地として訪れたトゥルーヴィルに魅了され、しばしばこの地を訪れていた。そして72歳の時にトゥルーヴィルに居を移し、亡くなるまでの20年以上をこの土地で過ごしている。

トゥルーヴィルへのアクセス

トゥルーヴィルへは、パリ・サン・ラザール駅から電車で約2時間、終点トゥルーヴィル・ドーヴィル駅からすぐのところにある。
なお、ノルマンディー地方といえばモン・サン・ミッシェルも有名であるが、そこからは距離にして150km以上離れており、直通する電車・バスもないため、ついでに寄るには少しアクセスが悪い。

ルーアンからトゥルーヴィルへ

私がトゥルーヴィルという街の存在を知ったのは社会人になって間もない頃、出張中の飛行機で読んだJALの機内誌だった。当時トゥルーヴィルはおろかサヴィニャックの名前さえも知らなかったが、のどかそうな海辺の街のそこかしこに現れるユーモラスな絵の数々に不思議な魅力を覚え、いつか行ってみたいなと、その町の名前を記憶にとどめていたのであった。

前日、同じノルマンディー地方の古都、ルーアンを訪れ、「街そのものが美術館」と称される美しい町並みに大層ご満悦だった私は、電車とバスを乗り継ぎ約2時間半、トゥルーヴィルへとたどり着いたのであった。

今回の主題ではないのだが、このルーアンという街も大聖堂をはじめとした町並みが大変美しかった。また夏季は大聖堂でプロジェクションマッピングも行われている。こちらもパリから電車で約1時間半と気軽にアクセスできる場所であるので、パリから一歩足を伸ばして訪れてみるのもよいだろう。

街に残るサヴィニャックの魔法

トゥルーヴィル・ドーヴィル駅に到着したら右へ向かって橋を渡ればトゥルーヴィルだ。

早速観光案内所へ向かおう。おなじみの"i"のマークが目印だが、そこはトゥルーヴィル。案内板もサヴィニャックの作品が活用されている。

観光案内所の看板に描かれているトゥルーヴィルの市のマークもサヴィニャックのデザインだ。
海辺の街らしくカモメをあしらったデザインが実によくこの街を現している。

観光案内所には、街中で見ることの出来るサヴィニャック作品の地図があるのでもらっておこう。電子版も以下で手に入れることができる。

そして、観光案内所には美術館も併設されており、そこでも作品を楽しむことが出来る。
しかし残念ながら、私が訪問したときは改装中とのことでクローズしていた。

街歩きならば、まずは海岸に行くのがよいだろう。

ノルマンディー海岸の砂浜沿いに遊歩道がある。この遊歩道は2001年にサヴィニャックの功績をたたえ「サヴィニャック遊歩道」と名付けられており、通りには彼の代表的な作品が複製展示されているのだ。

サヴィニャックはトゥルーヴィルに移り住んで以降、街の施設やイベントのためのポスターも多く手掛けており、遊歩道を歩きながらそれらの作品を楽しむことが出来る。

彼が街のために創り上げた作品たちは、ここ以外にも今でも街の至るところに残っている。
ホテルの壁面や(奥の建物)、

音楽学校、

こちらはもとは大道芸人ショーの告知作品だったらしい。

ポスターは、街路に貼られてこそ、その真価を発揮します。ポスターが自分を最も表現できるのは街路なのです。

生前サヴィニャックはこう語っていたそうだ。
サヴィニャックがこの世を去ってから20年が経とうとしているが、彼が街路の至るところに掛けた魔法は、今日でも我々を楽しませてくれている。

海の幸を楽しむ

トゥルーヴィルはノルマンディー海岸に面しているだけあり、新鮮な海の幸を堪能することが出来る。魚市場は街のシンボル的な建物になっており、その周辺にはいくつものレストランが軒を連ねている。

レストランで名産の一つであるという舌平目を頂いたがなかなかに美味だった。

隣町の高級リゾート、ドーヴィル

トゥルーヴィルからトゥック川を挟んで反対側に、隣町ドーヴィルはある。
同じく海岸沿いの保養地であるのだが、どこか庶民的なトゥルーヴィルとは異なり、ドーヴィルは高級感の漂うリゾート地になっている。

港にはヨットが停泊し、

ビーチの更衣室にはスターの名前が並ぶ。

ヨーロッパの紳士淑女の遊び競馬場やカジノも並ぶ、さながら貴族の社交場のようだ。せっかくならば、川を挟んでまた違った雰囲気を持つこちらの街も楽しんでみたい。

トゥルーヴィルのマグネット

トゥルーヴィルとドーヴィルのマグネットがこちら。

同じ海辺の景色だが、ドーヴィルがカジノに金をあしらったパラソル。
トゥルーヴィルが家々にカモメ、というのがまたこの2つの隣り合った街のカラーの違いを見るようで楽しい。

フェリーでイギリスへ

フランスとイギリスを結ぶ交通手段といえば、飛行機もしくは特急ユーロスターが有名であるが、フェリーも選択肢の一つに数えられる。
Brittany Ferriesがイギリス・グレートブリテン島南岸の各都市と、フランス・ノルマンディー海岸の各都市を結んでいる。

せっかくならば一度は船での移動を試してみようと、帰りはフェリーを利用することにした。トゥルーヴィル・ドーヴィルからバスで西へ2時間弱、カーンからイギリス・ポーツマスまでのフェリーを利用する。
このフェリーは夜行便となっており、ひと晩かけて海峡を渡るのだ。

(本当ならば行きもフェリーを使い、夜にポーツマスからフェリーでル・アーブルまで向かうつもりだったのであるが、その日の夜に自分の送別会が入ってしまった。まさか自分の送別会を欠席するわけにもいかず、翌朝の飛行機に変更したのであった。)

カーンの街を軽く観光し、郷土料理であるカン風トリップ(Tripes à la mode de Caen)を頂いて、フェリー乗り場に向かった。

カーンの街の中心部はやや内陸にあるので、ターミナルまではバスを使って約30分程度の移動を要する。

しばし待ってフェリーへと乗り込んだ。
船はこのモン・サン・ミッシェル号だったはずだ。

この船、なかなかに設備が揃っていた。
お土産屋はもちろんのこと、

セルフサービススタイルのレストランやバースペースなど、ゆったりと滞在を楽しめそうな設備だ。

普通の座席もあるのだが、せっかく夜行便なので寝台個室を予約した。
窓のない部屋であったが、一人には十分すぎる設備だ。

デッキに出て、出港を待つ。
週末の度に旅から旅、こんな日々ももうすぐ終わるのだと思うと名残惜しく、沈みゆく夕日をいつまでも眺めていた。

この10日後に出張でまたフランスを訪れるのだが、それはまた別のお話。


最後までご覧いただきありがとうございました。
次回は趣向を変えて、私がイギリスで住んでいた町を紹介させていただければと思います。

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