CEOだけが顧客理解度が高いと権限移譲が進まない
シリーズA前後などアーリーフェーズのスタートアップにおいて、CEOがメンバーに権限移譲しきれずに業務過多になるのをよく見かけます。その原因を掘り下げてゆくと、根本原因は「顧客理解度の高い人間が社内にCEOしかいない」であることが多いです。
スタートアップを立ち上げる目的は会社によって様々ですが、よくあるのは自分が働いていた業界の課題解決のためでしょう。例えばFintechは金融業界、Proptechは不動産業界で長年働いた人が業界の課題やペインを解決するために起業しています。バーティカルSaaSはそれが顕著ですね。
業界経験の長いCEOに加えて、CEOが不得意なテクノロジーやマーケティングを他の人(CTOやUI/UXデザイナーなど)が補う体制が多いため、初期のスタートアップにおいてはCEOの顧客理解度が抜群に高く、他のメンバーはそこまで高くないという不均衡が発生します。メンバーの少ない初期はこれでも良いのですが、メンバーが増えるにつれて、「顧客理解度の高い人間が社内にCEOしかいない」ことがボトルネックとなり始めます。
例えば、マーケティング担当者が見込客を集めるセミナーを企画したとします。彼は「この企画は果たして顧客に刺さるのだろうか?」という疑問から、CEOに対して企画案の確認を依頼します。それだけではなく、エンジニアが「今度リリースする機能が顧客目線で刺さるか見てほしい」、UIデザイナーが「新しく作ったUIが顧客にとって使いやすいか見てほしい」と、あらゆる成果物の確認依頼がCEOに集中してしまいます。CEOの顧客理解度が高いということは、CEOしか顧客視点を持って確認できないからです。
大量の確認依頼を捌いていてはCEOのリソースがパンクしてしまうので、CEO確認をスキップするのはどうか? これは、顧客に対してクオリティの低いものを届けてしまう恐れがあるのでハイリスクです。私が過去に支援した企業での実例ですが、マーケティング担当者がCEOチェックを経ないままオウンドメディアの構築や記事作成を行い、公開まで漕ぎ着けたのですが、公開当日に「記事の内容が薄すぎる」とCEOからクレームが入ったらしく、急遽公開中止になりました(記事などを差し替えて1ヶ月後に再公開)。これは公開前にCEOチェックを入れなかったのが原因ですね。
だからといってCEOチェックを挟み続けると、いつまでもCEOの業務が減りません。前述のセミナーの例でいうと、CEOにとってはマーケティング担当者が作った企画案には粗が多く見えるはずです。色々と指摘してあげた結果、担当者は「ブラッシュアップのために毎回CEOチェックを挟もう」、CEOは「BizDevに任せるのはまだ不安だ」という思いが強くなり、毎回チェックが続くことになります。
CEOの業務軽減のためにチェックは減らすべきですが、クオリティは担保したい。これを解決するには、「顧客理解」をCEOのブラックボックスにせず、他のメンバーもCEOと同等か、準ずるぐらいの顧客理解度を持つ必要があります。そのためには、いくつかの方法があります。
顧客をペルソナとして言語化する(BtoCなら年齢、性別、趣味、ライフスタイルなど。BtoBなら業界、企業、役職、業務内容など)
顧客との商談や打ち合わせに同席し、顧客の悩みをヒアリングする
現在契約中のユーザーのデータを分析し、傾向やボリュームゾーンを調べる
CEOが業界の構造や課題などを社員にレクチャーしたり、質疑応答の時間をとっても良いでしょう。顧客理解度の高いCEOからすると分かりきった話なのでムダな時間と感じるかもしれませんが、CEOの業務軽減や社員の成長のためと思って我慢してあげましょう。
顧客理解度の高いメンバーが増えてきたら、CEOの代わりに一次確認を任せると良いでしょう。例えば、BizDevのメンバーの顧客理解度が高くなったとして、デザイナーがUIデザインを作成したら、BizDevにUIの一次確認をやってもらうということです。CEOは二次確認で、BizDevが指摘しきれなかった事項を指摘してあげます。最初は指摘漏れが大量に発生するかもしれませんが、慣れればCEOが確認しているポイントや観点が理解できるようになり、一次確認だけでも十分になるはずです。