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COO設置による現場の混乱
COO(最高執行責任者)とは本来CEOの決めた方針を執行する役職ですが、スタートアップでは「もう1人のCEO」のような意味合いが強いと思います。CEOが苦手、または手が回らない分野を代わりに方針決定・実行する役割ですが、逆にCOOを置くことで現場が混乱するシーンを何度も見てきました。
CEOとCOOの役割分担
CEOとCOOの役割分担は、アーリーフェーズ(プレシリーズA〜シリーズA)だと以下のようなケースが多いでしょう。
CEO:プロダクトサイドの責任者
COO:ビジネスサイドの責任者
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CEOは創業期のプロダクト立ち上げから参画しているのに対し、COOは途中から入ることがほとんどです。プロダクトの理解度や思いはCEOのほうが高いためCEOがプロダクトサイドを見続け、COOは残ったビジネスサイドを見ることになります。
※ちなみに私は「ビジネスサイド」という言葉が好きではありませんが、今回は文字数節約の都合でこの言葉を使っています。
CEOとCOOのディスコミュニケーション
ここで冒頭の話に戻ります。本来はCEOが方針を決める立場、COOはそれを執行する立場ですから、組織図ではCOOはCEOの配下にあります。
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ところが、上記の図だとCOOがCEOの配下でなくビジネスサイドの責任者として独立しているため、COOはCEOへの報告・共有の義務無く現場に指示を出すことができます。これにより、CEOとCOOのディスコミュニケーションが顕在化しないまま現場に指示が下りてしまうのです。具体的には
COOが方針を策定し、ビジネスサイドの現場に指示する
現場が方針通りに業務を遂行する
後日、CEOの方針とCOOの考え方の齟齬が顕在化する
CEOがCOOに異論を唱え、COOはそれを呑む
COOが1の方針を白紙に戻すことを現場に指示する
のようなことが発生します。業務の手戻りロスもそうですが、現場としては「CEOとCOOでコミュニケーションがとれていないのか?」「CEOとCOOどちらに従えば良いのか?」と混乱、不安が生まれます。
具体的に、私が過去に経験したCEOとCOOのディスコミュニケーションをいくつか例に出してみましょう。
①私がマーケティング支援をしていた某社で、COOの指示で戦略策定や要件定義などをしていました。ところが、ある日CEOからCOOと私両名に「戦略とか作るよりも施策を動かしてください」と指示が入り、今までの成果物が白紙に戻りました。
②私が採用支援をしていた某社で、最終面接を通過した候補者がいました。採用責任者のCOOから私にオファーの指示があり、候補者にオファーを提出しました。ところが、CEOから「候補者に懸念点があるのでオファーをストップしてください」と指示が入り、候補者にオファーを取り消す旨を伝えました。その後候補者は見送りとなりました(オファーを出してぬか喜びさせた分、候補者からクレームが来ました)。
③私が以前在籍した会社で、副社長が新規事業の集客のためにWeb広告の出稿などを営業担当者に指示しました。ところが、社長から「今はWeb広告を出すフェーズではないのでは」という意見が入り、社長と副社長で協議の結果、Web広告の出稿は中止になりました。
COOをCEOの配下に置く
これを解決する方法は2つあります。1つはコミュニケーション方法の改善であり、
大きな戦略や方針を作る際はCOOからCEOへの共有を義務付ける
方針の意思決定者はCEO
というルールを定めておくことです。ただ、組織図上はCOOがCEOの配下にいないのでレポートラインとしては歪になる上、ビジネスサイドの責任者は結局CEOなのかCOOなのか曖昧になります。
もう1つは組織図の変更であり、COOをCEOの配下に置くことです。COOが方針を策定するのではなく、COOがCEOに方針を提案→CEOが承認 というフローを挟むことです。冒頭で話した「CEOが方針を決め、COOが執行する」という本来の形に戻すということですね。この場合、ビジネスサイド・プロダクトサイドいずれもCEOが責任者となります。
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私見ですが、アーリーフェーズはまだ人員や体制が整わずCEOが直接現場を見る時期ですから、CEOから独立したCOOを置くのは上記の通り現場の混乱を招く可能性が高いです。よってCOOをCEOの配下に置いてマネジメントすべきでしょう。
COOではなく管理職を置く
これだとCOOではなく中間管理職やマネージャーと同じだと思われるかもしれませんが、実際そうだと思います。アーリーフェーズにおけるCOOとはCEOとビジネスサイドを介在する管理職のようなものですから、COOよりは「営業部長」「PMM」とかのほうが役職として適切でしょう。アーリーフェーズの場合、COOではなく管理職を置くことをおすすめします。
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