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カールマルクスが渋谷に転生した件 28 マルクス、ただただ討論会を見る!

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マルクス、最近見てるだけ

討論会当日。NHKホール。

「では」司会者の声が響く。「環境政策について。まず大山候補から」

大山知事が颯爽と立ち上がる。
「私たちは、SDGsの理念に基づいた環境施策を」

スクリーンにパワーポイント。

・シェアサイクル3000台増設
・屋上緑化面積20%増
・再生可能エネルギー導入目標30%
・スマートシティ構想の実現へ

「具体的な数値目標を掲げ」大山の声に自信が満ちている。「世界基準の環境都市へ」

拍手が起こる。

「続いて」司会者が。「西野候補」

西野が静かに立ち上がる。
資料は一枚の図のみ。

「大山知事の示された数字」西野の声が響く。「確かに美しい。しかし、お聞きしたい」

会場が静まり返る。

「シェアサイクルのドックのため、どれだけの商店街の駐輪場が失われるのか。屋上緑化のため、どれだけの改築コストが店舗に押し付けられるのか。そして、スマートシティの名の下、どれだけの住民が立ち退きを迫られているのか」

場内にざわめきが。

「SDGsという言葉の裏で」西野が一枚のグラフを示す。「過去10年、都内の実質的な緑地面積は、年々減少を続けている。なぜか」

「環境経済学が教えてくれること」西野が続ける。「それは、数字の裏にある現実を見る目です」

新しいグラフを示す。

「都の環境予算、確かに増加しています。しかし、公園や緑地など、直接的な環境保護に使われているのは、わずか5%」

大山知事の表情が強張る。

「つまり」西野の声が力強くなる。「環境予算の大半が、再開発の免罪符として使われているのです」

司会者が割って入る。「中池候補は?」

「私が目指すのは」中池が爽やかな笑顔で返す。「DXによるデジタルトランスフォーメーション化です。ペーパーレスとすることで、紙のない行政改革を実現する。それこそが、革新的な、行政改革なんです」


マルクス、論破王の誕生を見守る

「その発想自体が」西野が静かに。「20世紀の思考ではないでしょうか」

会場がざわめく。

「デジタル化は手段であって、目的ではありません。より本質的な問題。若者の声を封じる古い選挙制度。目先の利益を優先し、未来への投資を怠る政策。東京が抱える問題の本質は...」

その時、小燕が割って入る。
「理論は分かります。でも、具体的な実現可能性は?」

「それこそが」西野が一枚の表を示す。「環境経済学の真骨頂です」

スクリーンには、複雑な計算式と共に、明確な数字が。

「現在の東京都の予算配分を見直すだけで」西野が説明を始める。「50年先を見据えた環境政策が可能になります」

大山が反論。「具体的な財源は?」

「例えば」西野が淡々と。「オリンピック後の箱物予算、毎年3000億円。その半分を、地域の環境保全に回せば」

新しいスライドが映し出される。

・都内全小中学校への太陽光発電導入
・商店街の環境配慮型改修支援
・若手研究者への環境技術研究費
総予算:年間1500億円
CO2削減効果:現行計画の3倍
地域雇用創出:2万人規模

「しかも」西野の声に力が込められる。「この政策には、もう一つの効果があります」

「どういうことだ?」司会者が食い付く。

「環境技術への投資は、若手研究者の雇用を生み出し、それが更なる技術革新を。商店街の改修は、地域コミュニティを守りながら環境対策を。つまり、環境と経済の好循環が...」

「理想論だ!」大山が声を荒げる。「実務経験のない学者の...」

「では、お聞きします」西野の声が冷静に響く。「大山知事の任期中、都内の実質緑地面積は900ヘクタール減少。なぜ、この数字を公表していないのでしょうか?」

場内が水を打ったように静まり返る。

会場の静寂を破って、司会者の声が響く。
「では、最後の質問です。東京の未来を一言で」

「世界一の環境先進都市へ」大山知事が颯爽と。

「将来のために、未来を作る」中池が真剣な表情で。

「多様性のある社会を」小燕が凛と。

西野が静かに立ち上がる。

「理論と実践の統合を」
そして、一呼吸置いて続ける。
「都市は、そこに住む人々のものです。100年前、渋谷の街に初めて灯りが灯った時、人々は未来を信じたそうです。その未来を、私たちは守れているでしょうか」

討論会が終わって2日後。

「産経の最新世論調査です」木下がデータを見せる。


大山喜久子:36%
中池担二郎:24%
西野草次:19%
小燕:8%
その他:12%

『西野教授に期待』が急増
『理論派だが実践的』と評価
『都政の本質を突いている』

「ここまで来たか」マルクスの髭が誇らしげに震える。

その時、ニュース速報が入る。

『座間候補、出馬取り下げ』
『真の改革を目指す西野候補に期待を』

「なに!?」一同が息を呑む。

「何かの策略では?」さくらの声に不安が滲む。

「もしかすると」木下が考え込む。「座間は、こちらを応援することで、ネガティブなイメージを植え付けようとしているのかも」

夕暮れの渋谷の街に、大山陣営の街宣車が鳴り響いていた。

「なるほど」マルクスの髭が膨らむ。「ついに、私の出番のようだな」

続く


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