1分小説 本の重さ
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私の部屋には積み上げられた本がある。
自己啓発、ビジネス書、成功哲学—。
どれも「人生の答え」を約束する本ばかりだ。
毎晩、私は貪るように読み続けた。
成功者の言葉を暗記し、その通りに生きようとした。
でも、どこか空しさが消えない。
他人の答えで自分の心を埋め尽くしているような、
そんな違和感が日に日に強くなっていった。
ある日、古本屋で見つけた一冊の本に、こんな言葉があった。
「読書は他人の思考の跡をたどることである。
羊の群れが歩いた後の草原のように、
すべてが踏みつけられ、平坦になってしまう」
その瞬間、私は自分が何をしていたのか、はっと気がついた。
他人の答えを探し求めるあまり、自分で考えることを放棄していたのだ。
次の日から、私は読書の仕方を変えた。
一日一冊と決めていた読書ノルマを止め、一つの本をじっくりと読むようになった。
そして何より、本を置いて、ただ考える時間を作った。
窓の外を眺めながら、自分の言葉で考える。
時には答えが見つからず、もどかしくなる。
でも、その「わからなさ」の中にこそ、確かな何かがある気がした。
積み上げられた本たちは、少しずつ新しい場所を見つけていった。
そして私の机の上には、一冊の白いノートが置かれている。
その中には、拙いけれど、確かに自分の言葉が綴られている。
その白いノートにも、私はもう執着していない。
時には、ただ窓の外を眺めているだけで良いのだと知った。
考えることも、書くことも、すべては水面に映る月のように。