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カールマルクスが渋谷に転生した件37 マルクス、サブスク地獄に溺れる

マルクス、思う壺

「むむ...この『無料体験』という誘いは、まさに麻薬の売人と同じ手口では?」
マルクスは、動画配信サービスの登録画面を疑わしげに見つめていた。

「マルクスさん」さくらが説明を始める。「ソ連映画のコレクションとか、結構充実してるんですよ」

「ほう?」マルクスの目が輝く。「エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』は?」

「はい、『カール・マルクス』っていうDDRの伝記映画もありますよ」

「なに!?」マルクスの髭が震える。「私の伝記を...見てみるか」

登録画面でのパスワード入力に手間取りながら、マルクスは独り言を続ける。
「しかし、このプラットフォームによって、芸術作品は商品と化し、視聴者の時間は搾取され...」

「PayDayで月額料金の支払いを...」

「むっ」マルクスの表情が曇る。「あの悪魔的なアプリを、また使えというのか」

数時間後。
「ふむ」マルクスは伝記映画に不満げ。「私の理論的著作の深み、革命的実践の意味が十分に描かれていない。これでは通俗的な...おや?」

画面に推薦作品が表示される。
『資本主義の終焉?~新たな経済システムの可能性~』

「現代における資本主義批判か...」マルクスの目が真剣になる。「これは研究のために見ておく必要が...」


マルクス、あるある

深夜11時。
「ふむ」マルクスは伝記映画に不満げ。「私の理論的著作の深み、革命的実践の意味が十分に描かれていない。これでは通俗的な...おや?」

画面に推薦作品が表示される。
『パラサイト 半地下の家族』
『マネー・ショート』

「ふむ、資本主義批判をこのような形で...」マルクスの目が真剣になる。「これも研究のために見ておく必要が...」

深夜2時。
「この資本主義批判、甘いな」マルクスは画面を睨みつける。「システムの表層を撫でているだけで、本質的な矛盾の分析が...むむ?」

『次のおすすめ作品を再生します』
カウントダウンが始まる。

「なに!?待て!私はまだ理論的考察を...」
慌ててリモコンを探すマルクス。

「10、9、8...」

「おのれ!これぞまさに視聴者の時間を強制的に収奪する、現代の搾取システム...」

「3、2、1...」

「だが、現代の搾取形態を知るためには、この作品も見ておく必要が...」

翌朝。
「マルクスさん、徹夜したんですか!?」
さくらが慌てて覗き込む。

「ふむ」マルクスは血走った目で髭をいじる。「これは厳密な意味での実地調査だ。現代のメディアによる意識操作の...むむ?また新しい推薦が」

「あ」さくらがスマートフォンを見て囁く。「他の配信サービスでも、労働問題のドキュメンタリーが...」

「ほう!」マルクスが画面を覗き込む。「では、比較研究のために契約しておくとしよう」

「でも、さっきのサービスと内容が重複してて...」

「なに!?」マルクスの髭が怒りで震える。「同じコンテンツを、複数のプラットフォームが分断して所有している!?これはまさに、デジタル時代の囲い込み運動...」

その時、スマートフォンに広告が表示される。
『いま話題の資本主義ドキュメンタリー特集!』
『あなたへのおすすめ:「搾取の構造」全3巻』

「むむっ」マルクスが顔をしかめる。「なぜ私の視聴履歴が、広告となって追いかけてくる?まるで19世紀の債権者のように...」



マルクス、沼にハマる

さらに数日後。

「むむ」マルクスがスマートフォンを凝視する。「この請求書は...」

「えっと」さくらが計算する。「動画配信サービスが3つで...」

「合計で月額4600円!?」マルクスの髭が逆立つ。「これはまさに...解約だ!」

解約画面で、マルクスの怒りは頂点に達する。

「なんということだ!」マルクスが叫ぶ。「解約ボタンを見つけるまでに7回もクリックが必要とは。これこそ新手の搾取...」

「あ」さくらが心配そうに。「でも『みつばと!』まだ見終わってないですよね?」

「む...」マルクスは髭をいじりながら考え込む。「確かにあの作品における日常生活の描写は、現代社会における疎外を理解する上で重要な...」

「言い訳ですよね」

「これは研究なのだ!」マルクスは声高に主張する。「プロレタリアートの『余暇』という観点から、現代における日常の構造を...」

その時、スマートフォンに新しい通知。
『あなたへのおすすめ:「みつばと!」フィギュア予約受付中!』

「なぜだ!」マルクスが立ち上がる。「なぜ私の知的好奇心が、このような商品広告に!?視聴履歴を追跡し、趣味嗜好を数値化し...これこそ現代における新たな...」

「マルクスさん」さくらが指摘する。「フィギュア、ポチろうとしてません?」

「こ、これは...」マルクスは慌てて画面を隠す。「現代の商品フェティシズムを実地調査するための...」

そこへ、木下からのメッセージが届く。
『マルクスさん、プラットフォーム資本主義に関する分析、進んでますか?』

「ああ、もちろんだ!」マルクスは得意げに新しいノートを広げる。「まず第一に、デジタルプラットフォームによる視聴者の時間の搾取について...」

「原稿、いつまでですか?」さくらが心配そうに。

「む...」マルクスは時計を見て青ざめる。「来週までだった。しかし『みつばと!』があと3話...」

「じゃあ、もう解約...」

「待て!」マルクスが慌てて制止する。「理論的考察にはデータが必要だ。そうだ、これも資本論改訂版のための...むむ?」

画面に次の推薦作品が表示される。
『みつばと! 〜春夏秋冬編〜』

「新シリーズ!?」マルクスの目が輝く。「これは...現代の四季を通じた労働と生活の...」

「はいはい」さくらが諦めたように。「とりあえず、原稿の締め切りを...」

「ああ」マルクスは血走った目でノートを見つめる。「現代のプラットフォーム資本主義における、視聴者の意識の商品化、そして...」

キーボードを打つ音が響く中、マルクスのスマートフォンには新しい通知が届いていた。

『みつばと!限定グッズ、予約締切まであと2時間!』

資本論改訂版の完成は、まだまだ先になりそうだった。


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