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1分小説 すべては消えていく

※一分で読めます。

「意味なんてないんじゃないかな」
理科室の窓から、夕暮れの校庭を見下ろしながら、俊介は呟いた。

「えー、それ厨二病じゃん」
掃除当番の友達が、ほうきを振りながら笑う。

でも、本当にそうだろうか。
勉強して、テストで良い点を取って、いい高校に行って、それで何になる?
部活だって、試合に勝って、県大会に行って、それで何が変わる?

先週、じいちゃんの葬式に行った。
みんな黒い服を着て、じいちゃんの写真に頭を下げる。
でも、その写真の中のじいちゃんは、もうどこにもいない。

「人はいつか必ず死ぬ。残されたものも、いつかは消えていく」
それなのに、どうして人は必死に生きているんだろう。

「おーい、まだ終わってないの?」
外から野球部の掛け声が聞こえる。
毎日毎日、同じことの繰り返し。

理科室の黒板には、先生が書いた「エネルギー保存の法則」の文字が残っている。
でも、人の心は保存されないんだ。

「俊介、帰ろうぜ」
友達の声に、ゆっくりと頷く。
夕焼けに染まった校舎の影が、長く伸びていた。

その夜、俊介は祖父の位牌の前に座っていた。
引き出しから出てきた古い野球のスコアブック。
祖父が付けていた試合の記録。

最後のページに、小さな走り書きがあった。
「意味なんてない。だから、俺たちが作るんだ」

俊介は黒いノートを開く。
「じいちゃんの言葉、全然わからない」
そう書きながら、ふと気づいた。

人は死ぬ。すべては消えていく。
でも、だからこそ、自分で描ける。
自分だけの意味を、ここに、今に。

翌朝、いつもの通学路。
空は相変わらず青く、雲は流れ、すべては消えていく。

「おはよう」
校門で友達が手を振る。

俊介は走り出していた。
神様が死んでも、意味が消えても、
俺たちはここにいる。
新しい価値を作れる存在として、確かに。

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