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カールマルクスが渋谷に転生した件39 マルクス、VTuberになる
マルクス、また無茶振りされる
「なに!?」
マルクスの髭が激しく震える。
「私が...バーチャル...?」
Das Kapital TV編集会議。ケンジが新しい企画を提案していた。
「そうなんです!」ケンジが目を輝かせる。「マルクスさんをVTuber化して、人気VTuberの白金セーレブちゃんと対談するっていう...」
「待て待て」マルクスが両手を上げる。「そもそもVTuberとは何だ?私の姿を、デジタルの世界に...」
「こんな感じです」
ケンジがタブレットを見せる。画面には猫耳の少女が資本主義について熱く語っている。
「むむ...」マルクスは興味深そうに覗き込む。「彼女の理論は確かに浅薄だが...なんという集客力だ」
「マルクスさんも可愛いアバターになれば...」
「な、なに!?」マルクスが真っ赤になる。「私の髭をデジタル化するだけでも許し難いのに、可愛いなどと...」
「でも」さくらが指摘する。「若い世代に経済理論が広まるなら...」
「むむ...」
マルクスは考え込む。
「ではまず、この白金セーレブとやらの配信を研究してみるか...」
マルクス、またハマる
その夜。
「ふむ...」
マルクスは一人、白金セーレブの配信を見つめていた。
「みんなー!今日は資本主義における労働疎外について話すにゃ!」
猫耳の少女が元気に語りかける。
「なんという...」マルクスの髭が戸惑いで震える。「私の理論をこのような形式で...しかも猫耳とは...」
「スパチャ読みまーす!」
画面に次々と投げ銭が表示される。
「おお!」マルクスの目が輝く。「これほどの数の若者が、経済理論に関心を...むむ?」
『リリィちゃん可愛い!でも搾取って何?』
『にゃんにゃん理論かわいい!』
『Marx.kawaii』
「これは...」マルクスは深いため息。「理論が可愛さに回収されているのでは...」
しかし、白金セーレブの解説は続く。
「みんなが毎日働いて疲れちゃうのは、自分の仕事から離れちゃってるからにゃ!これをマルクスおじちゃんは『疎外』って...」
「おじちゃん!?」マルクスの声が裏返る。
だが、コメント欄は盛り上がっている。
『なるほど!』
『今の仕事、そうかも...』
『マルクスの本、読んでみよ!』
「これは...」マルクスは髭をいじりながら考え込む。「確かに若者たちに理論が届いているのだが...」
マルクス、萌えキャラと化す
翌朝。
「どうでしたか?」ケンジが期待に満ちた表情で。
「む...」マルクスは少し照れくさそうに。「理論の本質は保ちつつ、新しい形式で伝えるということは、確かに...」
「じゃあ、アバター化を...」
「待て!」マルクスが慌てて制止する。「しかし私のアバターに猫耳をつけるなど...」
「いえいえ」ケンジがタブレットを操作する。「もっとマルクスさんらしい感じで...」
画面に表示されたのは、髭のふわふわした可愛らしいちびキャラ。
「なっ!」マルクスの顔が真っ赤に。「私の髭がこんなにもデフォルメされて...しかし、かわ...いや、これは明らかに資本主義による理論の矮小化...」
「あ」さくらがスマートフォンを見せる。「セーレブちゃんがマルクスさんとのコラボに興味津々みたいです」
「むむ...」マルクスは画面を覗き込む。
『マルクスおじちゃんと一緒に資本論勉強会やりたいにゃ!』
『理論と可愛さの融合を目指すにゃ!』
「これは...」マルクスは深いため息をつく。「現代における理論の伝達手段として、検討の余地が...」
その時、スマートフォンに通知が。
『白金セーレブの限定ボイス&画像集、発売決定!』
「なに!?」マルクスの髭が逆立つ。「キャラクターの商品化とは...これこそまさに...むむ?」
「マルクスさん」さくらが指摘する。「予約ボタン、押そうとしてません?」
「こ、これは」マルクスは慌てて画面を隠す。「現代のキャラクター商品化における、消費者心理の実地調査...」
マルクス、気乗りしない
一週間後。コラボ配信の打ち合わせ。
「では、マルクスさんが『資本論』の概要を説明して、セーレブちゃんが可愛くまとめる、というのはどうでしょう?」
マネージャーが提案する。
「むむ」マルクスは不安げに髭をいじる。「しかし、私の理論を『可愛く』まとめるとは...」
「大丈夫です!」
画面の中でセーレブが元気よく手を振る。
「労働価値説も、商品の物神性も、みんなに分かりやすく伝えるにゃ!」
「待て」マルクスが食い下がる。「物神性という概念を、猫耳で説明するというのか...」
「こんな感じです!」
セーレブがホワイトボードを取り出す。
「商品は、ニャンニャンした性質を持ってるにゃ!人間の労働を隠しちゃうから、みんな商品の正体が分からないにゃ〜」
「これは...」マルクスは目を見開く。「ニャンニャンは意味不明だが、確かに本質を捉えている。しかもこの表現方法は...」
コメント欄が盛り上がる。
『物神性、初めて理解できた!』
『マル猫理論最高!』
『資本論読んでみよう!』
「なるほど」マルクスの目が輝き始める。「これが現代における理論の伝達形式か...」
そして運命の配信当日。
「み、みなさん...」
髭の揺れるちびキャラが画面に登場する。
「本日は...資本論について...」
「マルクスおじちゃん、緊張しないにゃ!」
セーレブが励ます。
「お、おじちゃんと呼ぶな!私は...むむ?」
マルクスは画面を見て驚愕する。
『マルクス先生カワイイ!』
『髭フワフワ最高!』
『推し決まった!』
「なっ...」マルクスの本人の顔が真っ赤に。
「それじゃあ、今日は資本論第一章から!」
セーレブが明るく切り出す。
「商品には使用価値と交換価値があるにゃ!」
「ま、待て」マルクスのアバターが慌てる。「その説明は不十分だ。まず価値の実体について...」
「分かりやすく言うと、にゃんにゃんとニャンニャンの違いってことにゃ!」
「む...」マルクスは考え込む。「確かにその例えは...」
『にゃんマル理論、分かりやすい!』
『これが現代の啓蒙か...』
『マルクス先生の動揺が可愛すぎ!』
マルクス、結局資本に回収される
配信は大成功。しかし、その後マルクスの悩みは深まるばかり。
「これが...新しい理論伝達の形なのか?」
マルクスはスマートフォンを見つめる。
画面には通知が。
『マルクス先生の限定ボイス&画像集も企画中!?』
「なに!?」マルクスの髭が震える。「私のボイスを商品化するだと!?これはまさに...」
「マルクスさん」さくらが指摘する。「自分の限定グッズなのに、予約しようとしてません?」
「こ、これは...」マルクスは慌てて画面を隠す。「デジタル時代における自己の商品化の実地調査...というか...」
新しい理論伝達者としての道のりは、まだ始まったばかりだった。