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【失われた音】

フレッドは時計職人の家系に生まれ、世代を重ねるごとに受け継がれてきた技術と伝統を大切にしていました。彼の祖父も父も時計職人で、時計の微細な部分を組み立て、それぞれのギアが完璧にはまり合う音、振り子が静寂を切り裂く音、それら全てが彼にとっては家族の誇りであり、生きがいでした。

しかし、時代の流れと共にアナログ時計が街から姿を消し、デジタル時計が増えていきました。フレッドは自分の愛する音、職人としての誇りが消えていくことを悲しく思っていました。

ある日、フレッドは手に入れた一台の壊れたアンティーク時計を見つめていました。彼にとって、この時計はただのアンティークではなく、過去の時代を象徴するものでした。現代のテクノロジーでは修理不可能とされていたその時計を、フレッドは何としても修理する決意をしました。

何日もの間、彼はその時計に向き合い続けました。祖父から父、そして父から自分へと受け継がれてきた知識と技術を用いて、フレッドはその時計を一部一部分解し、修理しました。そしてついに、時計は再びその音を鳴らし始めました。フレッドが愛するアナログの音、失われていた音が彼の工房に響きわたりました。

その音を聞いたフレッドは、自分の生きがいを再確認しました。時代が進化し、テクノロジーが進歩しても、彼は失われてしまったものを再発見し、再評価することの価値を感じました。

しかし、その矢先に市役所からの通知が彼のもとに届きました。「環境音響の規制の一環として、音を出す時計の使用を禁止します。デジタル時計への切り替えをお願いします」と書かれていました。

その通知を読んだフレッドは無言で時計を見つめました。時代の流れには逆らえないと理解しながらも、彼の心の中では規制と過去への敬意、現代との葛藤が交錯していました。過去と未来、誇りと現実がぶつかり合う彼の胸中は、誰にも理解できない混乱と焦燥でいっぱいでした。それでも彼は、音を失わないように、ただただ時計の音を聞き続けるのでした。〈完〉

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財前ゴボウ
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