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【一杯のスープ】

ニナは小さな町で人気のスープカフェを経営していました。彼女のスープは一日一種類しかなく、毎日違う味が出されます。この特性が評判となり、町の人々は毎日どんなスープが出されるのか楽しみにしていました。

ある日、ニナは予告もなく店を閉じました。驚いた町の人々は何が起きたのかを知りたがり、心配する人々がニナの家を訪れました。しかし、ニナは笑顔で「明日、新しいスープを皆さんにお出しする予定です。それまでお待ちください」とだけ言いました。

翌日、ニナのカフェは再びオープンしました。その日のスープは「思い出のスープ」と名付けられていました。一口飲むと、それぞれの人が大切な思い出を思い出す不思議な味がしました。子供の頃の誕生日パーティー、初めて恋をした日、家族と過ごした静かな日曜日…それぞれの人々は自分だけの特別な思い出の味を感じました。

「どうやってこのスープを作ったの?」と皆がニナに尋ねると、ニナはにっこりと笑って「私が作ったのはただの野菜スープよ。思い出の味は、皆さんが心の中に持っているものです」と答えました。

ニナのスープカフェは、ただのレストランから、人々の心に触れ、思い出を再燃させる場所へと変わりました。人々はニナのスープを通して、自身の深層心理に触れ、久しく心の奥にしまい込んでいた思い出を再び味わうことができました。そして、一杯のスープが、何気ない日常の中で、人々が互いに心を開き、人生の美味しさを共有することができるような、驚きの場所へと変貌したのです。

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財前ゴボウ
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