【記憶のカプセル】
2063年、人間の記憶をデジタルデータとして保存する技術が発達しました。その記憶は小さなカプセルに入れられ、何度でも再生することができました。
有名な芸術家、キョウコは、この技術に魅力を感じ、自身の記憶をカプセル化することを決意します。彼女の全ての記憶、美しい思い出、辛い経験、大切な人との瞬間、全てが小さなカプセルに詰め込まれました。
ある日、裕福な男がキョウコに近づき、「あなたの記憶カプセルを買いたい」と提案します。キョウコは困惑しますが、芸術家として新しい視点を求める彼女の心は、この提案に興奮もします。そして、彼女はその男に自身の記憶を売る決断をします。
数年後、キョウコは再びその男に出会います。男は彼女に全ての記憶カプセルを返します。「あなたの記憶は素晴らしかった。しかし、それはあなたのものだ。私はそれを返すべきだと思った」と彼は言います。
しかし、キョウコが記憶カプセルを開けると、その記憶たちはなぜか違和感を感じます。記憶はデータとして存在していましたが、それを再び経験することができないのです。彼女が彼らを一度手放したことで、それらはもはや彼女のものではないと感じられたのです。
キョウコは理解します。記憶はただのデータではなく、自身が体験し感じたもの、そしてそれによって自分自身を形成するものだったのです。彼女がその記憶を放棄したことで、それらはもはや彼女のものではなく、新たな人生を生きる彼女の中には存在できないのです。
その後のキョウコは新たな人生を歩み始めます。それは新たな冒険への一歩であり、過去の自分を手放し、新たな自分を見つける旅立ちでもありました。
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