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FP&Aツールの進化とAI活用
こんにちは、Zaimoインターンの小林です。ここ数年、財務計画および分析(FP&A)ツールの市場では、新しいスタートアップの登場が相次いでいます。既存のツールでは対応しきれないユーザーのニーズや、AIやクラウド技術を活用した効率性向上の可能性が、新しいプレイヤーの参入を促しています。特に、より直感的な操作性や中小企業向けの手頃なソリューションへの需要が高まっていることが背景にあります。
今回、こうした市場の動向に注目し、注目すべきFP&Aツールを提供する主要な海外プレイヤーについてリサーチしました。それぞれの特徴や最新のトレンドをお伝えしていきます。それでは、詳しく見ていきましょう!
サマリー
- グローバル市場の盛り上がり:
2020年代に入り、様々な国から新興プレイヤーが台頭し、FP&A市場が活発化。特にエンタープライズ向けだけでなく、スタートアップや中小企業(SMB)向けのソリューションが増加している点が特徴的。
- 市場統合の進展:
新規参入企業が増える一方で、大手企業による買収や統廃合が進行。例えば、FinmarkはBILLに、CausalはLucaNetに買収されるなど、市場全体での再編が加速。
- 技術的な差別化:
各社は直感的なUI/UX設計、APIを活用した多様なシステムとのデータ連携、AIを用いた高度な分析やシナリオプランニング機能を軸に差別化を図っている。
- 今後の市場展望:
グローバル競争がさらに激化する中、地域ごとの規制や文化的な要素を加味した製品開発が重要に。特に、AIを活用した予測精度の向上や、スプレッドシートを超えた新しい操作性が市場の成長を左右する要素といえる。
Finmark(アメリカ🇺🇸)
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まず1社目は、Finmarkです。2020年にノースカロライナ州ローリーで、Rami Essaid、Greg Lissyの2人によって設立されました。スタートアップや中小企業が財務計画を簡単に行えるようにすることを目指し、"Simplifying Financial Planning for Startups"(スタートアップの財務計画を簡素化する)というビジョンのもと事業を展開しています。
Finmarkは、Y Combinatorの2020年冬バッチに採用され、プログラムを通じて急成長を遂げたスタートアップです。QuickBooksやXeroなどの会計ソフトと連携し、リアルタイムでの財務データの統合を実現するほか、直感的なインターフェースを備えたダッシュボードや「What-If」シナリオ分析機能を提供するFP&A(財務計画および分析)ツールです。特に、非財務担当者でも使いやすい設計により、小規模チームやスタートアップでの活用を支援します。
2022年2月、Finmarkは財務管理プラットフォームを提供するBILL(旧称:Bill.com)に買収され、現在はBILLの包括的な財務管理ソリューションの一部として統合されています。この統合により、財務計画から運転資金管理までを一元化し、幅広い企業に向けた高度な財務管理機能を提供することが可能になりました。
FirmBase(イスラエル🇮🇱)
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2社目は、Firmbaseです。2021年にイスラエルで、Tomer FedermanとVlad Shumlinの2人によって設立されました。"Revolutionizing FP&A with AI"(AIでFP&Aに革命を)というビジョンを掲げ、財務計画と分析(FP&A)を革新するプラットフォームを提供しています。
Firmbaseは、企業が財務、運用、人事データをシームレスに統合し、リアルタイムの洞察を得られるように設計されています。特に、コード不要で財務モデルの作成やシナリオモデリングが可能な点が特徴です。主な特徴として、AI駆動のFP&Aプラットフォーム、自然言語インターフェース、NetSuiteやSalesforceなど主要システムとの統合、シナリオモデリング機能があります。これにより、非財務専門家でも簡単に財務モデルを作成し、迅速かつ正確な意思決定が可能です。
FirmbaseのAI技術は、主に以下のような形で活用されています:
AI駆動の予測分析: 過去の財務データや業績データをもとに、将来の収益や経費の傾向を正確に予測し、意思決定を支援。
自然言語クエリ: チームメンバーが日常的な言葉で質問を入力するだけで、複雑な財務レポートや分析を瞬時に生成。これにより、専門知識を持たないユーザーでも高度なデータ分析が可能。
自動データ整理と可視化: ERPやCRMシステムから取り込んだ大量のデータを自動的に整理し、視覚的にわかりやすいダッシュボードを生成。
設立から間もなく、2023年5月にはS Capital主導のシードラウンドで1,200万ドルを調達し、さらなる製品開発と市場展開を加速しています。Firmbaseは、財務管理を効率化し、企業の成長を支援する革新的なツールとして注目されています。
TigerEye(アメリカ🇺🇸)
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3社目はTigereyeです。2022年にアメリカで、Tracy YoungとRalph Gooteeによって設立されました。"Empowering RevOps Teams with AI"(AIで収益運営チームを支援する)というビジョンを掲げ、営業、マーケティング、収益運営(RevOps)向けに特化したAI活用型データ分析および予測プラットフォームを提供しています。
Tracy Youngは、建設業界向けSaaSプラットフォームPlanGridの共同創業者としても知られ、同サービスは急成長を遂げた後、Autodeskに8.75億ドルで買収されました。その経験を通じて、事業の変化を正確に予測し、営業や収益運営チームの意思決定を支援するツールの重要性を痛感したことが、Tigereyeの設立につながりました。彼女のような豊富な起業経験を持つシリアルアントレプレナーによって立ち上げられたTigereyeは、営業、マーケティング、収益運営(RevOps)向けに特化したAI活用型データ分析および予測プラットフォームを提供し、特にデータを活用した意思決定の強化を目的としています。このような実務経験に基づく課題意識を反映したTigereyeは、業界内で注目を集める革新的なプラットフォームです。
TigerEyeは、以下のようなAI技術を活用した特徴的な機能を提供しています:
予測エンジン:過去のデータをもとに将来の傾向を予測し、営業チームのパフォーマンス向上を支援。
TigerChat:会話型AIアナリストが収益、アカウント、パイプラインに関する質問に即座に回答。
データエクスプローラー:高度なクエリビルダーとチャート作成機能を備え、詳細なデータ分析を実施可能。
セキュリティ:各顧客データを専用の仮想プライベートクラウド(VPC)で管理し、データの安全性を確保。
これらの機能により、TigerEyeは複雑なビジネス課題に迅速かつ正確な回答を提供し、収益運営チームの戦略的意思決定を強力にサポートしています。また、設立から短期間で注目を集め、2023年にはInitialized CapitalとNext47が共同で主導するシリーズAラウンドで3,000万ドルを調達しました。TigerEyeは、データ駆動型の収益運営支援を可能にする革新的なプラットフォームとして成長を続けています。
CAUSAL(イギリス🇬🇧)
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4社目はCAUSALです。2019年にイギリスで、Taimur AbdaalとLukas Köbis(共にオックスフォード大学を卒業)によって設立されました。CAUSALは財務モデリングおよび計画プラットフォームを提供しています。CAUSALは、従来のスプレッドシートを置き換える直感的なソリューションとして、多次元モデリング、リアルタイムデータ統合、インタラクティブダッシュボード、シナリオ計画を可能にします。このプラットフォームは、スタートアップや中小企業の財務チームに特化しており、複雑な専門知識がなくても高度な財務計画を実現できます。2024年10月には、ドイツの財務管理ソフトウェア企業LucaNetに買収され、同社のCFOソリューションプラットフォームに統合されました。CAUSALの機能は、LucaNetの既存サービスを補完し、より高度で柔軟な財務管理を提供しています。
CASUALの特徴的なAI機能として、以下が挙げられます:
AIウィザードによるモデル生成
QuickBooksやXeroなどの会計システムと連携し、AIが勘定科目表を分析して財務モデルを自動生成します。
リアルタイムデータ統合
会計システム、HRIS、CRM、データウェアハウスなどからライブデータを取り込み、最新の情報に基づいた計画策定を支援します。
シナリオ比較
新たなシナリオをワンクリックで作成し、複数のシナリオを並べて比較・分析できます。
創業者のTaimur Abdaalは、Nested.comでデータサイエンティストとして勤務していた際、Excelを用いた財務モデリングの非効率性やコラボレーションの難しさを痛感し、これらの課題を解決するためにCAUSALを立ち上げました。Accounting Web
CAUSALは、2021年にAccel主導のシードラウンドで約420万ドルを調達し、累計資金調達額は550万ドルに達しました。 その後、2022年にシリーズAラウンドで約2000万ドルを調達し、累計調達額は2600万ドルとなっています。 これらの資金を活用してエンジニアリングチームを拡充し、製品の市場投入を加速させました。その後、CAUSALは2024年10月にドイツの財務管理ソフトウェア企業LucaNetに買収されました。この買収により、CAUSALの柔軟な財務モデリング機能とLucaNetの包括的なCFOソリューションが統合され、企業の財務管理を次のレベルへ引き上げることが期待されています。
Anaplan(アメリカ🇺🇸)
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5社目はAnaplanです。2006年にアメリカで、Michael Gouldによって設立されました。Anaplanは企業全体の計画、予測、分析を統合するクラウドベースプラットフォームを提供しています。その基盤となるHyperblock™技術により、大規模なデータセットや複雑なシナリオの処理をリアルタイムで実現します。
Anaplanは、以下の特徴的な機能とAI技術を備えています:
AIを活用したシナリオプランニング
過去のデータとリアルタイムデータを活用し、複数のシナリオをシミュレーションして最適な計画を立案可能。
Geo-Mapping
地域ごとのデータ分析を行い、施策やパフォーマンスを視覚的に把握可能。特に地域別の市場動向やパフォーマンスの比較に有効。
インテリジェントアラート機能
データの異常や重要な変更をリアルタイムで検出し、迅速な対応を促進。
Anaplanは、特に大規模な企業や複雑なプロセスを持つ組織に適したスケーラブルなソリューションとして評価されています。2022年にはプライベートエクイティ企業Thoma Bravoに約104億ドルで買収され、非公開企業となりました。この買収により、製品開発と市場戦略の強化を加速し、引き続きグローバルな企業の計画業務を支援しています。
主要な利用企業
Anaplanは、さまざまな業界の大手企業に採用されています。例えば、テクノロジー、製造業、消費財、金融サービス、ヘルスケアなどの分野で使用されており、Coca-Cola、HP、Pfizer、Unileverといったグローバル企業がAnaplanを活用しています。これにより、複雑な事業計画を効率的に管理し、データに基づく意思決定を迅速化しています。
また、これらの企業に加えてPigmentやSimtrikのような企業も登場してきています。
Pigment(2019年設立、フランス)は、企業向けのビジネスプランニングプラットフォームを提供しています。2024年4月には、Iconiq Growth主導で1億4500万ドルの資金調達を行い、評価額が大幅に上昇しました。
同社の顧客には、Unilever、Datadog、Kayak、Merckなどが含まれ、売上が3倍に増加し、顧客基盤も倍増しています。Pigmentは、ERPやHRIS、データレイクなどの企業データと統合し、財務、営業、人事チームが協力してレポートや予算を作成できる柔軟なビジネスプランニングツールを提供しています。また、AI機能を追加し、自然言語での質問に迅速に回答する能力を備えています。
Simetrik(2019年設立、コロンビア)は、決済インフラストラクチャを提供するフィンテック企業で、特にラテンアメリカ市場に焦点を当てています。2024年2月には、ゴールドマンサックスから2000万ドルの資金を調達し、同社の評価額は1億ドルを超えました。Simetrikは、決済の調整と自動化を行うプラットフォームを提供し、企業が複数の決済手段やプロバイダーを効率的に管理できるよう支援しています。同社のソリューションは、決済エコシステム全体の透明性と効率性を向上させることを目的としています。
これらの企業の台頭により、管理会計や財務計画の分野でのグローバルな競争が激化しています。特に、管理会計は国境を超えるハードルが低いため、各国のスタートアップが積極的に市場に参入し、革新的なソリューションを提供しています。
いかがだったでしょうか?FP&Aおよび経営管理ツールの市場は、AI技術の進化により大きな変革を遂げています。特に、自然言語入力を活用し、高度な財務分析や予測を自動生成するプラットフォームが増加しており、効率性と正確性が飛躍的に向上しています。
FirmbaseやTigerEyeのような企業は、AI駆動型FP&Aツールの可能性を示しており、これらのツールはデータの可視化やリアルタイム洞察を提供するだけでなく、シナリオ分析や多次元モデリングを簡素化しています。一方で、AnaplanやPigmentのような企業は、大企業向けの統合型プラットフォームを提供し、部門をまたいだデータ連携を実現しています。
また、CausalやFinmarkが買収を通じて既存プラットフォームとの統合を進める動きは、市場の活性化に寄与しており、大手企業による統廃合がさらに進む兆しを見せています。このように、新興企業と既存プレイヤーの動きが交錯する中、企業規模や業種ごとにニーズを満たす多様な選択肢が生まれています。
今後、FP&AツールにおけるAIの活用はさらに重要となり、財務計画や意思決定プロセスを根本から変える潜在力を秘めています。この分野では、グローバル競争が激化しており、地域ごとの規制や市場ニーズに適応した新たな製品が登場することが期待されています。市場の進化と拡大には、引き続き注目が集まるでしょう。