【特別企画②】ライブ配信どうやる? 初心者が知っておくべき配信に必要な機材や予算、使える助成金は?
新型コロナウイルスの流行をきっかけに音楽ライブや演劇、お笑い、ファンミーティングのようなエンタメコンテンツだけでなく、企業のオンラインセミナーやフィットネスなどこれまでリアルで行われていた様々なコンテンツがライブ配信されるようになりました。
また、最近ではオンラインでのライブ配信と併せて、リアルでもイベントを開催するハイブリッドイベントもよく見かけるようになりました。
しかし、ライブ配信をやってみたくてもまだまだそのために準備する機材やそれらを用意するために必要な予算がわからないという人も多いはず。そこでZaikoでは映像制作のプロ向け機材やライブ配信機材を数多く取り扱う撮影機材の専門店「プロ機材ドットコム」の代表取締役を務める森下千津子さんにインタビュー。
2回目となる今回は、初心者がライブ配信を始めるにあたり必要になる機材や予算、ハイブリッド配信と無観客配信で揃える機材の違い、そして機材購入のために利用できる助成金などについて、お伺いしました。
それなりのクオリティを求めるなら30万円ほどの予算を検討
初心者がライブ配信を始めるにあたり、どれくらいの予算と機材が必要でしょうか?
それなりのクオリティの配信にしたいのであれば、少なくとも30万円くらいの予算が必要です。これは一見するとハードルが高いように思われがちですが、そもそもカメラ1台でも10万円くらいはしますし、マイク、ビデオミキサー、スイッチャー、そのほかにも音声を調整したりエフェクトをかけたいのであればオーディオインターフェースなども用意する必要があります。
カメラは自宅で1人で配信するのであれば、1台でも構いません、ただ、音楽のライブ配信だとパートごとの寄りアングルもほしいし、そうなればカメラの数も必要になってきます。それにこういうケースだと視聴者からすると引きで同じ画角の映像をずっと見せられるのもつらい。
なので、もしカメラが2台以上用意できないのであれば、手持ちのスマホを活用したりするのもアリです。ただ、スマホで撮影する場合もスマホ用のマイクくらいは用意しておく方がいいと思います。
とはいえ、カメラに比べてスマホのカメラだと、輝度差の大きい場所では白飛びや黒つぶれしたり、色の階調を豊かに表現するのは難しい場合もあるので映像にこだわりたいのであれば当然ちゃんとしたカメラが必要です。
それとアングルを切り替えたいのであれば、当然スイッチャーも必要になってきます。
なのでやはり比較的に安価な機材で揃えるにしても最低30万円くらいの予算は見ておいた方がいいと思います。
では、ライブハウスのようにマイクや照明設備が最初から整っている場所であれば、そういった機材を用意する必要はないということでしょうか?
そうですね。ただ、ライブハウスの音作りと配信用の音作りは違います。例えば、ライブのPAさんの仕事は、リアルの現場に来てる人に音を聞いてもらうように会場の演奏の音を補完するような調整をしていますが、それをそのまま配信にもっていくとバランスが悪いです。また、会場の雰囲気だったり、熱気みたいなものは伝わりづらいと思います。
なので、音のバランスを整えつつも、ライブの臨場感を出すためにエアマイクを立てるとか、そういった工夫も必要になってきます。
音楽の配信ライブだと例えば、大型のライブハウスであれば、現場にクレーンを入れるとか色々映像を作り込むことができますし、予算をかければ映像のクオリティは上がります。また、一般的なカメラ3~4台程度のマルチカムライブ配信をやろうと思ったら、機材を購入で揃える場合最低でも大体100万円くらいの予算は必要です。
ただ、そこまでの予算がない場合だと、まずはさっき話した30万円くらいのお手軽コースでやるのがいいんじゃないかと。
それと最近は4Kカメラ1台で広い引きの映像を撮って、それを10万円くらいのビデオミキサーで切り出して配信するような方法もありますね。
ビデオミキサーでは、プリセットをあらかじめ組んでおくことでボタンひとつでボーカルに寄った映像を出せたりもするので、カメラの数もカメラマンの数も抑えられるし、当然その分の予算も抑えることができます。
演劇の場合でも同じような方法でカメラワークをつけたライブ配信は可能ですが、ただ音楽ライブよりも動きがあるため、カメラマン1人だとちょっと厳しいかもしれません。
プロ機材ドットコムさんでは、ライブ配信向けの機材のパッケージも用意されていますがおすすめはどんなパッケージでしょうか?
さっき言った4K切り出しの機材を今年2月から弊社でもセット販売しています。これだとあまりカメラの台数が用意できない人でも簡易的に複数台のカメラをカメラマンが操作しているような映像を撮影することができるのでおすすめです。
それ以外にもさまざまな用途ごとに色々なパッケージを用意しているので弊社のホームページでご確認ください。
現在は、OBSなどライブ配信用の配信ツールも色々ありますがどれがおすすめでしょうか?
OBS(Open Broadcaster Software は、OBS Projectが開発保守しているフリー・オープンなストリーミング配信・録画ソフトウェア)は無料で使えるので初心者には心強い反面、複雑なことをたくさんしようとすると負荷がかかって落ちてしまう恐れがあるなど不安定な面もあります。それよりは安定性が高いハードウェアスイッチャーの方が有料配信する場合にはおすすめです。
高スペックPCを持っていて、きちんと管理できる知識があれば、WirecastやvMixのような有料のソフトウェアを使用することで、さらに表現の幅は広がります。
ただ、それもある程度PCの知識がある人に限られるというか、そういったソフトはPCのCPU負荷高かったり、PC本体の熱対策など色々なことを気に掛ける必要があります。
その点を踏まえて考えると初心者の場合は、ハードウェアエンコーダーなどを使った方が安定した配信ができると思いますし、操作性の面でもわかりやすいと思いますね。
準備のために補助金を活用しよう
自宅からライブ配信をする場合でも30万円くらいの予算を組んでおいた方がいいとのことでしたが、個人の場合だと金額面での負担は大きいと思います。その場合はどういった対策をしておくといいのでしょうか?
ライブ配信機材を揃えるにはまとまった資金が必要であり、それをどう調達するかということは私も最初悩みました。色々調べると活用できそうな補助金があることがわかり、弊社の場合は「小規模事業者持続化補助金」というのを活用しました。
この補助金は今年度では、一般枠では上限50万円、特別枠では上限200万円が補助されます。補助率は3分の2なので、例えば75万円分の機材を購入して50万円は後から補助金で補助されるということになります。(特別枠の一部条件を満たせば補助率4分の3になる場合もあります。)
この補助金を使えるのは、個人事業主と小規模(サービス業であれば従業員5名以下)の法人等が対象になります。
中規模以上の企業さんであれば、もっと大きなな額が補助される「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」のような補助金であれば利用することが可能です。もちろん個人事業主や小規模事業者も使えます。
ものづくり補助金の一般型通常枠では上限1250万円、事業再構築補助金の通常枠では上限8000万円となっています。(ただし上限は従業員数によって変わります)ものづくり補助金も事業再構築補助金も機材導入費用の他、条件はありますが販促活動費用も入れることができます。
補助金の審査においては、オンライン化するための機材導入計画とともに、コンテンツの集客プランを考えるということも大事です。
また、配信システム一式といった詳細内容がわからない書き方や、カメラだけとかだとカメラ自体の汎用性は高く、別の用途でも使う可能性があるとと判断されかねず、正直、印象が良くありません。
なので、申請する時は用途が限定された専門的な機器の導入であること、その機器の導入によって何ができるようになるのかということ、ただ機材を購入するだけでなく、どのように集客するかということもあらかじめ計画しながら、どういった形で収益を上げていくかも説明できるような事業計画書を作っておいた方が良いですね。
これは補助金額が大きい補助金になればなるほど、周到な事業計画、綿密な財務計画、実現可能性や収益の根拠、新規性や革新性まで求められます。
初めての方は自分で事業計画を作成するのは大変だと思うので、中小企業診断士さんなどその道のプロに相談してみてください。商工会でも無料で相談できると思います。(商工会会員でなくても相談はできます。)
あと、補助金というのは先にお金がもらえて自由に機材が購入できるというものではありません。また、すでに購入済みの機材のお金がもらえるというものでもありません。(一部事前着手が認められる種類の補助金もありますが)審査が通って採択された事業計画に沿って実施が完了し、報告書が提出され、報告書の審査が完了して初めて補助額が振り込まれます。それまでの間、立て替える資金を用意するということも必要です。
最近ではハイブリッド配信も増えましたが、この形で配信する時もやはり用意する機材は通常のライブ配信とは違うのでしょうか?
音声回りでの失敗が多いと聞きます。特にリモートゲスト講師がいたり、動画を流す場合は、会場のマイクの音、リモート講師の音声、動画の音声、それぞれを会場へ出す音、配信へ出す音、リモート講師へ送る音と切り分けながら処理を行います。
こういったハイブリッドに対応する音声処理をしようと思うと音声系の機材が倍に増えます。
ただ、ハイブリッド配信の需要は今後ますます高くなりそうなので、トラブルがないように機材の準備も万全にしたいですね。