資金調達までのzaicoの歩み。はじまりは山形の実家の倉庫業だった(代表取締役 田村壽英)
私が代表を務める株式会社ZAICOが、アーキタイプベンチャーズから株式による3億円の資金調達を実施することができた。
資金調達は成功の印でもなんでもないが、一つのマイルストーンにはなる。
ここに至るまで、多くの人の助けや協力があって、なんとか事業成長することができた。
その恩に報いるにはとても足りないが、自分自身の考えや今までの思考の変化などを発信することによって、私のようなごく普通の人間でも事業を起こし、世の中に小さな前進を起こすことができることを伝えて、そういう人が増えれば、世の中にちょっとだけ恩返しができると勝手に考えている。
いかに小さなきっかけから事業が始まったか、そしてどのように今に至るのかを伝えるために、創業からの話をしたいと思う。
創業のきっかけ
他のネットの記事を探してもらえればわかるが、zaicoの原型は「スマート在庫管理」という名前で2014年の暮れに誕生した。実家の田村倉庫の業績が悪く、その助けとなるためにアプリを作成し始めた。
話をわかりやすくするために、「実家の倉庫の業務効率化」というストーリーをよくインタビューなどでは話しているが、実際のところ話はもう少し複雑で、田村倉庫の顧客をどう増やすかという発想から、この在庫管理アプリの開発は始まった。この話は意外と長いのでまた別の機会に書こうと思う。
さて、話を進めると創業したきっかけは一つではない。スマート在庫管理をリリースして試しに有料プランを出してみたところ、それで一人が何とか食べていける水準にはなったこと、前職のfreeeでお客さんから在庫管理のニーズをよく聞いていたこと、とある大手から協業の話があったこと(なんとこの協業は未だに続いていており、一つの収益となっている)、前職での何となくの行き詰まりを感じていたこと、など複合的だった。
情けない話だが、私自身はけっこう臆病なので、少ないながらも一定の売上があるという状況が創業を一番後押ししたと思っている。
創業当初
zaicoはWebアプリとiOSアプリ、Androidアプリと、3つのプラットフォームにまたがってサービスを展開していた。とても一人ではできないと思い、大学時代の先輩である宮下さんに声をかけ、Androidのアプリを手伝ってもらうところから、会社としての活動を開始した。売上があるといってもほんのわずかで、宮下さんの給料を支払ったら、ほぼお金は残らないような状況だった。
ほどなくして、妻の職場の異動でなんと東京の離島である伊豆大島に移住することになった。妻の会社の方で住宅も手配してくれるということだったので、これならばだいぶ生活費が安くできると喜んで島について行った記憶がある。なお、ZAICO社は創業当初からフルリモートワークであり、これからもフルリモートワークをやり切る所存だが、オフィスを借りるお金がない、社長が伊豆大島にいるのならばフルリモートにならざるを得ない、という状況がZAICO社の今の独自の生態系を生み出している。
伊豆大島では4年過ごしたが、そこで少しずつ仲間を集め、ソフトウェアのアップデートを繰り返していった。自己資金でやっていたため、エンジニアを雇うのが精一杯で、一人が何役もこなしているような状況だった。当然、セールス部隊などを組成することもできないので、必然的に商売の仕方として、今でいうProduct Let Growthという形で商売をしていた(もちろん当時はそんな言葉もなかったが)。
この時に加わったメンバーの幾人かは今のZAICO社の重要なポジションについている。また島での生活は当初は不便を感じたが、慣れてしまえば楽しいもので、町営温泉の年間パスポートを買ってほぼ毎日温泉に行ったり、ロードバイクを趣味にしたりと、意外と楽しんでいた。この時期の話だけでも、ずいぶんと語れるが、またにしよう。
いずれにせよ、この時期は自分の中にもゆったりとした「島時間」が流れ、クラウドでスマホで使えるちょっと便利な在庫管理ツールを粛々と作っていた時代だった。私はエンジニア出身なので、自分が作ったソフトウェアがお客さんに使われている、そしてちょっとだけ役に立っているという、このシンプルな状況に満足してしまっていた。
島から帰ってからの心境の変化
妻の仕事の異動がまたあり、東京に帰ることになった。この時には、zaicoはアカウント数だけで70,000ユーザーになっており、在庫管理アプリとしてはなかなか良いポジションを築けていた。
東京に戻ってから、zaicoのお客さんを含めいろいろな人と話をすると「結構いいサービスをやっているんだからもっと本格的にやればいいのに。」と異口同音に言われた。単なる在庫管理ソフトから進化してもう少し世の中にインパクトが出せるのではないか、そのように思い始めた時期でもある。
思い返せば、自分のビジョンや考えは人と話すたびに磨かれ成長してきたように感じられる。中でも思い出深いのは、とある社長に食事に呼び出されてzaicoについて説明していたところ「結局、君が作ってるソフトの一番の強みは何?」と聞かれて、「現場のモノの情報を記録・収集するのが、一番簡単で楽なソフトです。」ととっさに答えた。事前に整理されたものではなかったが、5年間事業をやっていた中で育まれた、自分なりの整理だった。恥ずかしい話だが、お客さんの声に寄り添って愚直にソフトを発展させてきただけで、バリュープロポジションみたいなものも明確に決めないで進めてきた。こういうセグメントのこのお客さんに価値を届けようといった明確な戦略も、当時は緻密なものはなかった。
それでも曲がりなりにも一定成長できたのは、最初のユーザーである山形県の実家の倉庫業とその課題に思いをはせてソフトを作ってきたからだと思う。「田村倉庫の〇〇さんならば、このUIならスムーズに使えるはず」と、在庫管理の現場で一番問題になる「情報を簡単に記録できる」ことには常に心を砕いていた。そういった考えが言葉になって出て、その発言がまた自分の考えを形にしていった。
ユーザーアカウント数は増えてきたが、事業の売上は劇的に伸びたわけではなかった。自己資金でなんとか回していたので、スタートアップというより中小企業だった。
この時期にも、ベンチャーキャピタルから、出資の打診などをいくつか受けたが、ちょっとした現場の在庫管理ツールを売って上場できるほど売上になるとも、急成長できるとも当時は思えなかったし、そんな出資受けてしまえばお互い不幸になると考え、すべてお断りしてきた。
「人の代わりに」というコンセプト
そのように事業を進めていく中で、zaicoがどうやら病院やクリニックでも使われているという情報をつかみ、試験的に、大分県の医療系学会の企業展示ブースに出展してみることにした。その時に展示ブースに寄ってくれたお客さんに「このソフトを使えれば、スタッフが辞めても病院運営が回りますね。今すごく人手不足なので助かります。」と言われた。何気ない会話だったが、今までモヤモヤしてきたところが明らかになった瞬間だった。
そうか。zaicoを在庫管理ツールとして売るのではなくて、zaicoが人の代わりにビジネス上絶対に必要な在庫管理を行う、発注業務を行う。それを人間よりもミスなく漏れなくできるようにすることは、人を一人雇う以上のインパクトがあるということに改めて気づいた。ソフトウェアの料金を、人件費と天秤にかけてくれるようになるわけである。これならばちょっとした業務効率化を無理に訴求しなくても良い。
商売の筋の良さは、その選んだ市場とその会社が提供できる価値の内容で8割が決まると今でも思っている。
このコンセプトならば大きなビジネスとして成立する。そう直感した。
zaicoが「人の代わりに在庫管理をする」というコンセプトを整え、今までの実績とともに今後の製品の方向性についてベンチャーキャピタルに説明して資金調達活動を始めた。もちろんお断りされたところもあったが、多くのベンチャーキャピタルはこのコンセプトや進むべき方向性に共感してくれて、資金を出すと言ってくれた。
モノの情報のインフラに
では、今回調達した資金を何に使うか。それは製品の進化である。「人の代わりに在庫管理をする」というコンセプトを具現化するように、現場での在庫管理を極限まで省力化・半自動化・完全自動化と、段階を追って進化させていく。
AIやIoTといった技術は、その実現に大きく寄与する。ZAICO社では、既に画像認識の「かざしてzaico」や、重さから自動で在庫数を判定するIoT重量計の「ZAICON」を提供している。これらの製品はまだまだ発展途上なので、現場の人が直感的に使える、もしくは意識しなくても勝手に使っている状況を目指していく。
zaicoを使っているだけで、自動的にその会社のモノに関する情報が集まる状況になる。まずこれが第一段階。ところで、会社間は取引があるからネットワークが形成される。現在、モノの情報のやりとりはもっぱら紙の納品書を打ち出して相手に届けるというところが大多数である。これに対し、zaicoで正確にデジタル化・可視化されたモノの情報をやりとりし、これらの事業所間をつないでいく。例えば、ある卸売業者が取引先の在庫不足を事前に検知して自動的に納品する、ないしは、発注しなければ欠品となってしまうことを取引先にソフト上でサジェストするといった具合だ。
そうなってくると、zaicoはもはや単なる在庫管理ソフトではなくて、モノの情報をやり取りするインフラになる。結果、会社間で、地域間でモノの情報が可視化・活用できる状態になれば、その情報をもとに、モノの製造元が生産計画を立てたり、また使わなくなったものをリユースするといった商売につなげられる。
ZAICO社のビジョンは「モノの情報を取得し、整え、提供することで、社会の効率を良くする。」である。モノの情報のインフラになれれば、このビジョンが具現化できる。創業間もない頃に作ったこのビジョンは当時「そういうところまで行ければいいよね」といった空想議論から生まれた。当時、これが本当に実現できるとは創業者でも自信がなかった。
でも、今はこのビジョンを本気で実現できると信じている。
良い市場とコンセプト、そしてこれを一緒に実現してくれる良い仲間が集まってきた。「これはいける!」と思って仕事に取り組めるのは本当に幸せだ。
結び
足元の実家の家業の課題を解決することから物事が始まり、そしてそれがモノの情報のインフラへと考えが進化した。最初から大きなビジョンを持っていれば、それに越した事はないのかもしれないが、そうではない場合でも物事の進捗とともにビジョンも進化する。その進化は、会社のメンバーとの会話、お客さんや他の事業をやっている人との話の中で引き起こされてきたし、これからもそうしていく。
ZAICO社は在庫管理ソフトを作っているわけではない。モノの情報のインフラを作っている。この大いなる事業を完成させたい。「zaicoする」という言葉が「在庫管理を自動化して他の会社とその情報をやりとりする」という意味で一般的に使われるようにしたい。やることはたくさんある。
ZAICOのビジョンや事業に共感したならばご連絡を!