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心の需要を満たす音楽

それなりに規則正しい生活をして、自炊もしつつ、定期的に運動もしている。元からそれほど体力のある方ではなかったが最近は一度風邪を引くとなかなか治らなくなってしまった。要は免疫力が低下しているのだろう。噂には聞いていたが「更年期障害」というのは個人差はあるものの、一定の年齢になれば避けることのできない様々な症状に見舞われるのだな、と感じざるを得ない。

自分のそんな変化に合わせて仕事や生活もある程度変えて行く必要に迫られる。無理が効かない、というのはこういうことなのだな。そんなふうに自分を納得させながら「できること」と「できないこと」を吟味するようになった。声がかかったらなんでもやってきた方だがそろそろそういうわけにもいかないのである。

妊娠・出産を2度経たときにもあまりの体の変化に驚かされたものだがそれに比べればまだマイルドというか、それほど急激な変化に見舞われたわけではない。ゆっくりと坂道を転がり落ちているといえばいいだろうか。ゆっくりだけれど確実にHPやMPが減っていくような感覚。その対処としてはやはりポーション、ハイポーションなどが必要になってくるわけで。

自分にとってのポーションの役目を果たしているのはなんだろうか。それは例えば気の置けない友人たちと他愛もないことを話しながら雰囲気のいいカフェでコーヒーやケーキを食べる時間であったり、ワイワイ言いながら美味しいものを食べている時間だったりする。人と合わないときには好きな音楽を聴きながら、今のように何かをただただ綴っている時間やランニングマシーンの上で心を無にしてひたすら走っている時間だったりするのかもしれない。

そういえば数日前に以前から行きたいと思いながらなかなかタイミングが合わずに行けなかったキリル・ペトレンコ指揮のフィルハーモニーを聴きに行く機会があった。先月に赤十字の方から解雇の話が出た際に「何かいいコンサートはないかな」とベルリンフィルのホームページを検索してまだ残席のあったコンサートのチケットを確保しておいたのだ。

ペトレンコといえば、ロシアのオムスク出身でベルリンフィルには2019/20年のシーズンから首席指揮者兼芸術監督に就任している。もう随分と長いというのにまだ一度も彼の指揮による演奏会に行くことができずにいた。念願のペトレンコによる演目は以下の通りである。

Samuel Barber
Adagio für Streicher op. 11

Sofia Gubaidulina
Der Zorn Gottes

Sergej Rachmaninow
Francesca da Rimini op. 25

Galina Cheplakova Sopran, Dmytro Popov Tenor, Dmitry Golovnin Tenor, Vladislav Sulimsky Bariton, Ilia Kazakov Bass, Rundfunkchor Berlin, Gijs Leenaars Choreinstudierung

これまでコンサートホールでボロボロと涙がこぼれたのはモスクワで聴いたラフマニノフだった。ゲルギーエフによるショスタコーヴィッチも相当クレイジーだったが今回のペトレンコのラフマニノフも圧巻だった。それ以前に演奏された2曲もこれまた非常に興味深い選曲だった。今の時代を反映しているかのような、どちらかといえば暗めの音楽である。

1曲目は映画Platoonのサントラにもなった有名な曲。曲の名前も記憶していなかったのだが、最初の音を聴いた瞬間に「これはあの曲では!?」と鳥肌が立った。2曲目は全く知らなかったのだがソフィア・グバイドゥーリナという、ソ連のタタール自治共和国出身の現代音楽の作曲家の作品だった。どこかショスタコーヴィチにも似た暗く激しい曲。

本気の演奏に出会うと、HPというよりMPが一気に上がる。どこか普段は入らないスイッチが入るような感覚を覚えるのだから音楽の持つパワーというものは計り知れない。心の需要というか、やはりたまには生の演奏を聴く必要があるなぁ、と真っ暗になったベルリンの街を歩きながら思うなどした。

就職活動は予想通りサクサクと進む気配もないが今は体と心のメンテナンス時期だと思って、観たいもの観て、聴きたいものを聴いて、会いたい人に会おう、そんな気持ちでいる。





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ベルリンのまりこさん
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