やたらと話の弾む家庭医
さて、真っ暗で湿っぽく寒い季節到来のベルリンに太陽が燦々と降り注ぎいつまでも暖かい日本から戻ってきた。
仕事始めは明後日なので、その前にインフルエンザの予防接種をするために東京滞在中に家庭医の予約を入れておいたのだ。この先生、とにかく毎回話が面白いので診察が楽しみですらある。お察しのとおり、そんな先生はこのベルリンでは希少価値だし、どこを探しても見つからないと思う。運はいい方なのだ。
名前を呼ばれて診察室に入ると先生は開口一番、「それで日本はどうでしたか?」と尋ねてきた。やっぱりそうくるよね。「もうドイツに戻る気がきれいさっぱりなくなってしまって帰るのに非常に苦労しました、申し訳ないですけど」と伝えると「そりゃそうなるよね」と即答。「だって日本は素晴らしくオーガナイズされていて、街もきれいだし、人も親切でしょ?ベルリンとは全く違うもんね」
そうやねん、先生、なんでわかるんですか。
診察はそっちのけで予想通り一時帰国の報告会みたいになった。どこに行ったのか、から始まりご飯は美味しかっただろうね、円安はどういう感じ?小さな子どもを連れて旅行に行けると思う?などなど割と事細かに尋ねてくる先生。どうやら日本行きを考えているらしく、診察のことをそっちのけで質問攻めである。
「あ、そうだところで、、、」とようやくインフルエンザの予防接種の話に持ち込んだのだが、コロナの予防接種について念の為尋ねてみると、先生はこんなことを言うではないか。
「あ、コロナといえば、ぼくももうこれまでに3度かかってるんだけど、今回のは初めてキツかったんだよね。1週間くらい休む羽目になって。呼吸器が必要とまではさすがに行かなかったけどちょっと驚いたよ。今年は予防接種は打ってないんだけど。え、打った方がいいかって?うーん、もういいかな、とも思うけど推奨はまだされているし、あなたは職場が職場(難民センター)だから打っても無駄にはならないと思うけど。だって人が多いでしょ?」
はい、ひとつのテントに300人いますね。自分の経験談も交えて意見を述べてくれるのがいつもおかしくて診察中にどうしても笑ってしまうのだ。
「それより、日本から戻ったばかりでこの天気だとこれから1月まで坂道を転がるように気分が低下するんじゃない?ビタミンDを飲んだ方がいいと思うよ、ほんとに。ある程度のレベルには保ってあげないとね」
坂道を転がり落ちる、そうだよな、そうですよね!今のところはまだ大丈夫だけれど、帰ってきて日が浅いのを忘れては行けない。今は日本の楽しかった記憶に支えられているだけなのだ。しかもまだ職場にも顔を出していないじゃないか。
結局、コロナの予防接種については最新バージョンが届くのが1週間後とかで別日に打つことに。鉄不足の検査は年明けの1月に。その他、諸々クリアし診察所を出て受付へ。そう、受付のオーガナイズがあまりよろしくないのだ。30分経っても注射を受けられず、先生が「まだなの?」と不思議そうな顔をして通り過ぎること2回。そのうち、先生の方が痺れを切らしたらしく、再度名前を呼ばれた。
「どうしてこうなるのかぼくにもよくわからないんだ。このままだと午後になっちゃいそうだから打っちゃいますね。今日は運動は控えてストレスも溜めないようにね、とはいってもベルリンでは難しいですけども笑」
先生、ウケる。無駄に待たされたが、もう先生がいい人なので良しとします。ビタミンDだけでベルリンの暗い冬を乗り切れるとは思えないけれど、私には日本での楽しかった記憶があるのだ。かかってこい。たぶん大丈夫。自信は正直なところ、あまりない。
最後に先生に「いや、でもここのところ日本の友人が立て続けに本帰国するんですよね。まぁ気持ちは痛いほどわかるんですけど」と言うと「で、あなたもいずれ帰ろうと思ってる?」とこれまた直球が飛んできた。「そうですね、もう昔のベルリンとは全く違う街になってしまいましたし。あまりいい未来が見えないんですよ、来年は選挙だし。残念ですが」と言ったら「ぼくもそう思う。ほんとうにその辺にあるただの都会になっちゃったよね」
また話が長くなりそうな気配がしたので、ありがとうございました、と言って診察室を出た。先生とは一度お茶でもして話し込んでみたいくらい。まぁそれはさすがに無理なんだろうけど。
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