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ベルリンのシャウビューネで「かもめ」の観劇

いつもに増して不調だった土曜日。検査で原因がわかっているからいいものの、座っていても下腹がシクシクと痛む。痛みには鈍感な方なのだがこれでは何も手につかないので、仕方なく出かける前に痛み止めを飲むことにした。

そう、今日は友人とシアターに行くことになっているのだ。ベルリンの西側にあるシャウビューネ(Shcaubühne)という劇場である。この劇場の外観もシンプルでとてもいい。今日の横断幕には「全てが回る」とあった。どういう意味なんだろう。全てがぐるぐると回る、眩暈がする、ということ?眩暈のするような世の中?この劇場の上に置かれたスローガンが割と好きなのだ。東側ではフォルクスビューネ(Volksbühne)の上にもいつもスローガン的な一言が書かれた横断幕がある。現状を揶揄するような煽るような一言である場合が最近は増えている。ベルリンの劇場たる所以である。

シャウビューネの外観

普段は東側に住んでいることもあり、ベルリナー・アンサンブル(BE)、ドイツ座(DT)、フォルクスビューネ(Volksbühne)などに足を運ぶことの方がどうしても多くなる。自宅が旧東ベルリン側にあるので西側のシャウビューネに行くのは若干遠く感じてしまうからだ。クーダムという目貫通りに位置しているのに、意外と交通の便が悪い立地なのである。

それが関係しているのかどうかは不明だが、久しぶりに足を運んだシャウビューネの観客層は東側に比べると年齢層が上のように見えた。ヴィルマースドルフという住民の年齢層が高い地区に位置しているせいかもしれない。

オスターマイヤー監督作品を観るのはこれがまだ2度目だろうか。とにかくチケットを取るのが難しい人気のある監督なのである。東側のシアターに共通するいわゆる「過激な演出」というよりはどちらかというと役者の個性を全面的に出してくるセリフ中心の演出だというイメージが強い。正直、東側の演出にうんざりしつつあるので、昨日の「かもめ」には役者の持ち味と演技力、シンプルで無駄のない演出にぐいぐい引き込まれた。

3時間20分という長さだったので自分に合わないようであれば休憩のタイミングで帰宅する、という選択肢も考えていたのだが久しぶりに最後まで観たい、と思わせてくれる内容だった。円形劇場のように設置されたシートと舞台中央にどーんと置かれたプラタナスのセット。観客と演者の距離が非常に近い。そしてその位置関係を活かした演出になっており、役者の力量が非常に問われるセッティングとなっていた。

プラタナスと椅子のセット

観客の反応が違えが役者の反応も変わる。役者と観客が一体化した演出なので、また別の日にも観てみたくなる。そんな作品である。

チェーホフの「かもめ」だというのになんと原作にあたったことすらなかった。原作の劇曲との違いも比較してみたくなったので忘れないうちに読んでおきたい。

ロシア語の先生の一言をまた思い出した。「灰色の日常生活」にシアターでの観劇は彩りを添えてくれるのではないか。ライブ体験というものは何事にも変え難い貴重なものである。


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