「ママ、ドイツもやばいな」
14歳の娘が昨日の夕飯を食べ終わった頃に突然こう言った。
「うん、そう思う。このまま行くとママの住みたかったベルリン、というかドイツじゃなくなるかな」
と答えた。ドイツ人の父と日本人の母(つまりは私)を持つ娘。どうやらドイツ人としてのアイデンティティーの方が昨今の政治動向によって揺すぶられているようなのだ。
「このままやと、ドイツに住みたくない外国人がみんな帰って半分くらいいなくなって国が終わるやん!」
「ドイツが今よりもっと嫌われちゃうで!」
なるほど。おそらく私が毛嫌いしているTik-Tokでも見たに違いない。それでも同世代がこんなメッセージを打ち出しているのであれば悪くないかもしれない。娘に聞くと、学校でも休み時間などに話題になっているんだそうだ。友人の中には反極右デモに参加した子もいるらしい。日本の一般的な中学生に比べると政治への関心が高い。
「同じ年くらいの子はみんなAfD(ドイツのための選択肢:右派・極右政党と呼ばれている)には反対って言ってるで」
この「みんな」を聞くと、中学のときに国語の先生が言っていたことを思い出す。「おまえらのいう『みんな』はせいぜい多くて5人くらいやから」と当時まだ20代半ばくらいだった達筆の国語教師は言ってのけた。これは本当にそうで、SNSで誰かが何かそれらしいことを言ってライクがたくさんついていても、それが「みんな」だと勘違いしない方がいい。そもそもSNSを実際にアクティブに利用している人など氷山の一角でしかない。
それでも実際問題、SNSの発達と共にいわゆる「扇動」めいたアクションが取りやすくなっていることは否めない。この便利なツールをうまく利用しているのも残念ながらAfDのようなポピュリズム政党である。ここのところ、世論調査ではAfDがほぼずっと2位の位置を占めている。以下のグラフは今週1月16日付の統計となっている。
娘に10代はともかく、驚くべきことに年配世代と20代後半から30代でも残念ながらAfDへの支持が多かったんだよ、と言うと驚いていた。娘はAfDのような極右政党を支持するような層は年配だけに偏っていると思っていたらしい。確認のために統計を見ると、一番支持が多かったのは35歳から44歳までだった。
娘のひとつ上の知り合いが東京の中学校に5週間ほど短期留学していた際、クラスメートにドイツのことを揶揄されたらしい。そのことを娘はとても気にしていて、さっきのような「ドイツ人がもっと嫌われる」という発言につながったのではないかと思う。歴史上、ナチスドイツという時代を抱えているドイツは何かとイメージが悪いのだ。当然といえば当然である。
「ドイツは何かあったらすぐヒトラーとかナチとか言われるけど、日本はそういうパッと思いつく人もいないしな。ドイツとは違う」
確かにそうかもしれないが、日本も戦時中は似たようなことをやってきている。ただ、娘の言わんとしていることはよくわかる。ドイツも戦後、どれほど近隣諸国の信頼を取り戻す努力をしてきたことか。過去約70年間に渡る積み重ねで今のドイツがあるはずなのだが、こうも簡単に覆されようとしている事実を受け入れるのはなかなか厳しいものがある。外国人の私でもそう感じるのだから、AfDを支持していないドイツ人の心境はいかがなものか。
約3年に及ぶコロナ禍、そして戦争。時代の空気のようなものに簡単に流されないで欲しい、と願っているのはもう既に少数派なのだろうか。そう思いたくはないし、なって欲しくもない。来年2025年には連邦議会選挙も控えている。日常生活を送る上で、明るい話題が少なすぎるのだ。
この件については、いずれ本ブログの方に最近の記事も紹介しつつまとめたいと思っている。うんざりするテーマなのでなかなか重い腰が上がらないのが正直なところだ。