『ルールブック』
おじいちゃん家の蔵が大好きだ。
テニスコートくらい広いその蔵には、
ごちゃごちゃとたくさんのものが置いてある。
今日見つけたのは、ある本だった。
全体的に白っぽくて、大きい。
かなりホコリをかぶっていたが、
良い厚紙を使っていたので、
払うだけでキレイになった。
僕はこの白い本を持って、
友達である楠木君の家に行った。
楠木「で、おじいちゃん家にあったの?」
僕 「そう!蔵の中ね!」
楠木「何の本なの?」
僕 「英語わかんないから!読めない!」
楠木「ふーん、おもしろいじゃないか。」
僕 「楠木君ならそういうと思ったんだー!」
楠木「そもそもこの本のタイトルは、
なになに、うーん、
表紙のインクがかすれちゃってるな。」
僕 「中はきれいなんだけどね!」
楠木「かろうじて読めるのは、ええと、
ルールブックオブザゲームだけか。
僕 「ゲームのルールブックってこと?」
楠木「そうみたいだね。
なんのゲームなんだろうか。」
僕 「中を読んだらわかるんじゃない?」
楠木「僕も今そう思ってたところだ。
よし、見てみよう。
僕が日本語に訳してやる。」
僕たちは、そのルールブックを読み始めた。
ルール1
「ゲームは部屋に2人きりで行う。」
僕 「ちょうど僕たち、2人だね。」
楠木「二人きりってのが気になるな。
ゲームなのに、
審判とか、必要ないんだろうか?」
僕 「あ、ほんとだね!」
楠木「二人で出来るならやってみようか。」
僕 「ルールは絶対守ろうね!」
楠木「当たり前だよ。ずるはだめだからな。」
ルール2
「敗者は勝者に好きな人を教える」
僕 「えー、やだ!」
楠木「小学生みたいなこと言い出したな。」
僕 「じゃあ僕が負けたら、
みゆきちゃんが好きだってことを、
楠木くんに言わなきゃいけないってこと!?」
楠木「え、今言っちゃってるよ!」
僕 「あ、言っちゃった。」
楠木「・・・っていうか、お前、へぇ、
みゆきのこと好きなんだぁ。」
僕 「うん、優しいし、可愛いし、
好きなんだ!
絶対他の人に言わないでよ?」
楠木「へぇ、別に、はぁ、どうでもいいし。」
僕 「急に様子が変だよ楠木くん?」
楠木「はぁ?変じゃねぇし。
それは何?
お前がみゆきが好きって聞いて、
俺が動揺してるみたいに聞き取れるし、
全然そんなことねぇし。」
僕 「うーんでも、
好きな人の事教えちゃったから、
もうこのゲーム出来ないね。」
楠木「いや、このルールの下、
補足があるぞ。」
補足
「すでに好きな人を知っている場合、
敗者は好きな人に告白をする。」
僕 「えーー!」
楠木「えーー!」
僕 「じゃあ僕が負けたら、みゆきちゃんに告白するってこと?」
楠木「絶対だめだよ・・」
僕 「え!?」
楠木「・・いやこんな罰ゲームみたいなこと、
やらなくていいんだよ!」
僕 「僕、やるよ。
ルールは絶対だもんね。」
楠木「ええ!?そのスタンス!?」
僕 「それにまだ負けたわけじゃないし。
っていうか、ルールも知らないし。」
楠木「まぁ、お前がいいっていうなら、
別に俺は、止めないけど?」
僕 「よし、じゃあ次いこう。」
ルール3
「2人が向かいあって行う。」
僕 「向かい合うのね。」
楠木「よし、お前、そっち行け。」
ルール4
「部屋の中にあるもので、
涙を拭ける物の名前を叫ぶ」
僕 「ティッシュ!」
楠木「す、タオル」
ルール5
「先に叫んだ方が先行となる。」
僕 「よし僕が先行だって。」
楠木「お~、なんか有利そうだな。」
ルール6
「先行の者は、
語尾にジャスをつける。
つけ忘れたら負けとなる。」
僕 「ジャスをつけるジャスか。」
楠木「はははは、なんだそのルール。」
僕 「恥ずかしいジャス。」
楠木「ルールは絶対だからな。」
ルール7
「後攻の者は、常にカッコつける。
つけ忘れたら負けとなる。」
僕 「後攻の方がしんどいジャスね。」
楠木「ああ、聖母マリアに泣きつきたいね。」
僕 「かっこつけ忘れたら負けジャスよ?」
楠木「大丈夫さ、
イカロスの翼で、
太陽へ行くわけじゃないんだから。」
ルール8
「この状態で、
相手を勝たせた方が勝ち。」
僕 「どういうことジャス?
勝たせた方が勝ち?」
楠木「こいつはとんだジョーカーだ。
禅の達人にでもなれってか。」
僕 「勝ち負けについては、
僕の語尾か、
楠木くんのカッコつけ、
忘れた方が負けになるジャスから、
負けた方が、
相手を勝たせたことになるジャス、で、
ええと、あれ?」
楠木「要は、ルールを破った方が勝ち、
守り切れば負け、ということか。
悪魔と契約した気分だ。」
僕 「・・・」
楠木「・・・」
僕 「楠木くん、普通に喋れば良いジャスよ。
それだけで勝ちジャス。」
楠木「お前こそ、その語尾をやめたらどうだ。
それだけで勝利の美酒に酔えるぞ。」
僕 「正々堂々、勝負したいんジャス。」
楠木「ど、う、か、ん」
僕 「でもあれジャスなぁ。
もう外も暗くなってきたし、
時間をかけると、
みゆきちゃんに告白できないジャスよ。」
楠木「お前、
なんか負ける前提で話してないか?
アダムをそそのかした蛇のような策略
を感じるぜ。」
僕 「そんなことないジャス!」
楠木「いや、お前は、
みゆきというイヴに、その、
禁断の果実を、
食べさそうとしてるだろ!」
僕 「楠木君!言わせてくれジャス!
君もみゆきちゃんのことが
好きなんじゃないジャスか?」
楠木「うっ」
僕 「正直に答えてほしいジャス。」
楠木「そんなことないぜ、
キューピッドは、他人の恋を、
応援するだけさ。」
僕 「僕の恋を本当に応援してるなら、
わざと負けてくれるはずジャス!」
楠木「カッコつけて喋るのが好きなだけさ!」
僕 「それもあるジャスね!
うまいジャスもんね!」
楠木「・・・ああ、そうさ!
俺はキューピッドはキューピッドでも、
堕天しちまった。
みゆきに惚れちまってる、哀れな
ダキューピッドさ。」
僕 「やっぱり!
みゆきちゃんのことが
好きだったんジャスね!」
楠木「まったく、ポーカーだったら、
有り金全部なくなってただろうよ!」
僕 「あと本当にカッコつけるのが、
上手いジャスね!」
楠木「お前に告白なんかさせるか!
みゆきと俺は、
運命の赤い糸で結ばれてるんだよ!」
僕 「・・・そうジャスね。
僕なんかが告白しても、みゆきちゃん、
困るだけジャスよね。」
楠木「お前・・・」
僕 「みゆきちゃんはきっと、
頭が良い楠木君みたいな人の方が、
好きジャスよ。
決めたジャス。
僕、みたいなバカには・・・」
楠木「もういいや!
かっこつけとか飽きちゃった。」
僕 「楠木君!?」
楠木「馬鹿馬鹿しいよこんなの。」
僕 「急にどうしたんジャス?」
楠木「だから馬鹿馬鹿しいって言ってんだよ。
僕は頭はいいけど、
君は、それ以上に、優しいやつだ。
みゆきには、
君の方がふさわしいよ。」
僕 「ありがとうジャス。」
楠木「ははは、語尾、とって良いんだよ!
まだゲームを続けてるつもり?
告白の時でも、ジャスが出ちゃうぞ。」
僕 「いや、つけるジャスよ。
だって、楠木くん、
今、カッコつけないっていう
カッコつけの自分を
やってるジャスよね。」
楠木「・・・」
僕 「僕の油断を誘って、
語尾取らせようとしてるジャスよね。」
楠木「バレたぁ!」
僕 「あ、今猛烈にダサいジャス!
カッコがついてない!」
楠木「あっ!」
僕 「はい、僕の勝ち!
みゆきちゃんのところにいってくる!」
楠木「あぁ~、みゆきを取られちゃうよ!」
僕 「泣いても無駄だよ!行くからね!」
楠木「ひっく、ちょちょちょ、ちょっと待て。
最後のルールをまだ読んでないぞ!」
僕 「なに?」
ルール9
「敗者は勝者の涙を拭く」
僕 「はいティッシュ。」
楠木「よくできたゲームだ。」
~終わり~