神木隆之介さん、三吉彩花さん主演ドラマ『恋侍』の原作・脚本を担当しました。
音声版のNetflixともいえる新プラットフォーム『NUMA』にて、ドラマの企画・脚本を担当しました。音声のみだからこそ表現できる新感覚ドラマ、その名も『恋侍』。
このドラマ脚本をどのように書いたか、製作現場で感じた主演の神木隆之介さん三吉彩花さんの凄さについて触れたいと思います。
なお第1話を以下のURLから無料で聴けるので、ぜひ気軽に体験してみてください!(10分ほどなのでサクッと聴けます)https://numa.jp.net/mob/cont/contShw.php?site=NM&ima=1739&cd=DSE00014
その前に、NUMAってなんなのさ。
NUMAは2021年4月にサービスインした「音声で体験する新感覚ドラマ」を提供するプラットフォーム。たとえるならNetflixの音声版とでも言えるようなサービスです。
最近、音声コンテンツ、ジワジワ来てますよね。
ポッドキャストは何年も前から話題になっているし、Voicyやクラブハウスといった音声コンテンツプラットフォームも人気です。僕自身も毎週更新の映画レビュー番組「新しいフォルダー」の製作・出演をしています。映像と比べたときに、音声コンテンツは作る方も聴く方も気軽なのがいいですよね。
また、音声コンテンツのジャンルは多岐にわたります。
ニュースやコラムやフリートークはもちろん、物語だってあるわけです。実はアメリカではすでにポッドキャストドラマは市民権を得ています。
でも、日本では「ポッドキャストでドラマ?」というと、パッとイメージできるものがありませんでした。作品としても、サービスとしても。
そこに現れたのが「NUMA」というわけです。
極端に振りきった作品が書きたかった
※ イラストは『とんかつDJアゲ太郎』の小山ゆうじろうさん。
今回、NUMAのオープニング作品のうちのいくつかを担当させて頂けることになり、その内の一本が前回ご報告した『シュウガク!』であり、また今回ご報告する『恋侍』です。
これらの作品は企画段階から、「音声だからこそ楽しめる作品にしたい」という思いがとても強くありました。
「それもいっそ、むちゃくちゃ振り切ったものを作りたい」
その気持ちを許容してくれる、心のだだっ広さがNUMAにはあります(笑)。だからこそ参加アーティストがのびのびと、自分の創造性を最大限に活かした作品が集まっています。
『シュウガク!』は青春モノのドラマでしたが、この『恋侍』はかなり振りきった恋愛コメディ作品です。デートを「恋愛試合」と呼び、自らを「恋愛示現流、免許皆伝の恋侍」と自称するちょっとアレな主人公が、高校時代のアイドルと偶然再会して、口説こうと奮闘する一夜の物語。
もうこの時点で分かると思うけれど、主人公の落合君は童貞です。
高校時代はクラスカースト最底辺で過ごした「青春難民」。
でもそんな彼は、「巨匠」と彼が呼んでいる恋愛マスターの元で様々な恋愛技術を学び、いまや自信に満ちあふれた青年に成長しています。
恋愛知識がパンパンに詰め込まれた頭でっかち妄想巨人の落合くんが、高校時代のかつてのアイドルを、どうやて口説き落とすのか!?
というのがドラマのあらすじとなります。
「今宵も口説け、恋侍っ!」
この『恋侍』はもともと僕自身が「東京カレンダー」で連載していた小説をベースとして、それを音声コンテンツ向けに、より妄想力を高めた作品です。
僕は小説も脚本も執筆し、楽曲の作詞もするタイプの作家です。
さまざまなメディアで作品を作る上で僕が意識しているのは、そのメディアだけの特性をきちんと活かすということです。
そのメディアの特性、ではなくて、そのメディアだけの特性。
小説を読むことでしか体験できない面白さがあるように、実写映像でしか、アニメでしか、そして音声コンテンツでしか体験できない面白さが、それぞれにあります。
たとえば、NUMAの『恋侍』では冒頭に毎回、小倉久寛さん演じる「巨匠」による前口上があります。そしてその締めは「今宵も口説け、恋侍っ!」というひと言で終わります。(なんてバカバカしいんだ!笑)
このような前口上を使った盛り上げは、活字のみの表現媒体である小説では、どうしても上滑りしてしまう(多くの読者にとって冗長に感じてしまう)んです。
でも逆に、音声だと(しかも小倉さんのような声に厚みのある達人が演じると)むちゃくちゃ華やかなセリフになります。だからこそ、よけいにバカバカしくて面白くなる。
また、本編はほとんどが主人公の落合くんの脳内言語によって進行します。
この構成も、音声だからこそ可能な作りです。
映像作品だと、どうしても視覚情報のほうが圧倒的に情報量が多く、そこに長い脳内セリフ(独白)が加わると、あまりに情報量が多すぎて視聴者が邪魔に感じてしまいます。
でもそれが音声ドラマなら可能で、しかも自然に聞こえる。なぜなら、僕らはふだん頭の中で物事を考えながら生活しているからです。
音声ドラマでしかできない表現。
その細かいアイディアの集積が、本作『恋侍』です。
神木隆之介という巨大な才能
今回、主役の落合ニコライ役を演じて頂いたのは、神木隆之介さんです。
神木さんには拙著小説『三軒茶屋星座館』の帯にコメントを頂いたご縁がありました(ほんとうに嬉しかった)。ほかにも偶然電車の中でお会いしたり、パーティーの場でご一緒になったりという機会はあったのですが、お仕事としてご一緒するのは今回が初めてでした。
本作品の収録時には僕もスタジオに入っていました。
落合というキャラクターはどんな人物か「柴崎さんからもなにかありますか?」と意見を求められる機会があって、僕も簡単に思っていることを伝えさせてもらいました。といってもほんの2、3点です。
ほんの2、3点。
だからこそ、度肝を抜かれた。
それくらい、神木さんが凄まじかった。
2、3本のクレヨンしか渡してないのに、数万色の絵画を描かれるような衝撃でした。マイクの前に立った神木さんが口を開いただけで、僕のイメージする落合というキャラクターが、作者である僕が想像する以上のリアルさで、いきなり目の前に現れるんです。なにがどうなってるのか、すぐに理解するのが困難でした。
まず、圧倒的なセリフ量をものともしないよどみない滑舌がすごい。
本編を聞いて頂ければ分かるけれど、この作品のセリフ量は過剰です。むしろその「過剰さ」がコンセプトとなっている作品です。
でも神木さんの滑舌はおどろくほど鮮明で正確でした。
さらに五体の感覚がスーパー鋭い。
これにはちょっと説明が必要かも知れません。
たとえ同じセリフでも、声のトーンや、ちょっとした間、あるいはそれを生み出す姿勢や身振りで、聞き手に伝わってくる感情というのは変わってってきます。これって、ほんのちょっとの感覚的な差なんです。
ちょっとだけ、顎を上げて演じる、とか。
わずかに前傾になって演じるとか。
でもそのわずかな差で、まったく違う表現になる。それが声優さんの芝居の難しいところでもあり、面白いところでもあります。
ふつうは試しに何本かシュートを打ってみて距離を測り、監督とお芝居のすり合わせをしつつ、合格点のB級、そしてA級の表現へと精度を高めていきます。
でも神木さんのお芝居は、一本目のシュートからすでにS級の表現です。それ自体がすでに異様なんです。スタジアムは総立ちです。
でもスタッフは「もっと面白いモノを作りたい」という気持ちで一丸となっているため、もしかしたらこれ以上の、SR級の表現があるんじゃないかと思ってしまう。一本目でいきなりS級なんかを出されたから、もうこちらも麻痺してしまうのです。だから
「ちょっと、ここのセリフ、別の言い方で(感情表現で)できますか?」
となる。もしあるなら、見てみたい。
でもそんな監督の注文に、神木さんはさらに繊細な感覚的調整を行い、次の一撃で確実にSR級を出してくる。
(マジかよ、人間ってそんなことできんのかよ)
と思うレベルです。神か。神木か。
極めつけは、引き出しの多さが半端じゃない。
たとえすでにSR級のセリフであっても。
印象の違うSR級のセリフが次から次へと何枚も出てくる。
マジシャンがテーブルにずらーっとトランプを並べるみたいに。「どれでもお好きなのどうぞ」と僕らは言われているようでした。全部がSRとか、なんなのこのガチャ。
神木隆之介さん、尊すぎる。
と思って間もなく、僕は三吉彩花さんの凄まじさも知ることになります。
今回三吉さんに演じていただいたのは、双子役でした。
一人二役を演じるというのは、熟練の役者さんでも難しいお芝居なんです。とくに双子役のような、似ている二人を演じるのは超難易度が高い。なぜなら、とてもよく似ているように見せなくてはいけないし、同時に、どこか少しだけ違うように見せなくてはならないからです。
そんなことできますか? 僕に?(できないし、頼まれてない)
さらに今回の役は、神木さん演じる落合に比べて、三吉さん演じる大崎姉妹の出番は極端に少ないのです。そのためわずかな表現の場でだけで、似ているけど少し違う双子を、聴覚のみで印象づける必要がありました。
そんなことできますか? 僕に?(だから頼んでない)
さらっとドラマを聴いているだけだと気づかないかも知れないけれど、こんな離れ業を、ほぼ予備動作なくやってのけるのが三吉彩花という女優なんです。現場は騒然です。
神木隆之介さんと三吉彩花さん。
尊い二人の台詞の応酬は、まさに侍の斬り合いのように白熱しました。
脇を固めて頂いた小倉久寛さんは「恋侍の師匠」という、ふつうに考えて意味不明な難役を見事に演じて頂けましたし、今井隆文さんのお芝居は現場にいて笑い声を抑えるのに必死だったほど面白かったです。
まだ配信開始となったばかりで、ドラマはこれからつづいていきますが、まずは無料の第1話を聞いて頂けるとうれしいです。ドラマの製作の裏側を知った上で体験すると、より面白さを感じて頂けるかも知れません。なにとぞよろしくお願いいたします。
それではみなさん、ご一緒に。
「今宵も口説け、恋侍っ!」